仕事・人生
競馬場で突然「音が聞こえなくなった」女性 馬のために生きようと自力で拓いた牧場の今
公開日: / 更新日:
何かと何かをつなげる仲介役は天職!? 今も昔も変わらない
馬に出会う前の菅野さんは、美容外科の患者さんとドクターとの間をつなぐお仕事をしていました。実は日本で最初に美容外科のビフォーアフターを出した人なのだそう。
「手術前と仕上がった後の写真はすでに存在していたかもしれませんが、その間の経過や体験談というのは当時ウェブに出たことが一度もなかったんです。そこで私は、ビフォーアフターの隙間をちょっとみんなに教えたり、ドクターの意見や考え、患者さんの意見や考えをお伝えしたりする“中間役”の仕事をしていました。その仕事を8年間やったところで千葉に引っ越してきました」
美容外科に来る人とドクター、施術を受けた後の人と受ける前の人。双方をつなぐ役割を担ってきた菅野さんにとって、馬と人間を取り持つことは同じ感覚だったのかもしれません。
「美容外科に来るお客様にはコンプレックスや知られたくない部分、いじられたくない部分を持っていらしている方が多く、とても繊細なんです。それは馬も同じ。馬に触りたいとか、馬に乗りたいというお客様がいらして、その間に私がいる。この三者の近縁を保つという役割が私には向いていると思うんです」
美容外科に来るお客様を傷付けないためにはどうしたらいいのか。前職時代に考え抜いてさらに学んだことが、そのまま今の菅野さんに生きているのだそう。
「実は私、夢はもう達成しちゃっているんですね。だから今は余生です(笑)」
そう明るく話す菅野さんからは、精神的な余裕が感じられます。
「あまり高望みするタイプではないんです。だから私も馬たちもここに草があって、天気が良くて、今日はこれでいいなあ、っていう感じの仕事をしているくらいがいいんです」
馬に出会ってビビッと感じ、移住して約10年。泥まみれになっても、疲れても、1円にならなくても、「これまでつらいと思ったことはない」と菅野さんは胸を張ります。なぜなら、これが自分のやるべきことだと思っているから。菅野さんは今日も、馬たちと一緒に房総半島の雄大な景色の中で過ごしています。
幼少期に各地を転々とし、社会人になってからは美容外科のビフォーアフターをネット上で公開する仕事に就く。30代の時に訪れた府中競馬場で“音が聞こえなくなる”という不思議な体験をしたことから、馬とともに生きていく人生を選択。1年も待たずして当時住んでいた神奈川県から千葉県へ移住した。2012年に「馬森牧場」をプレオープン。現在までに多くの来場者に乗馬体験だけでは得られない馬の生き方や感性を伝えている。同牧場はテレビ番組のロケで使用されることもしばしばある。
(Hint-Pot編集部・出口 夏奈子)