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今も昔も水が湧き出る井の頭公園 「水」にまつわる地名に多く付けられた漢字は?

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

教えてくれた人:日本地名研究所

井の頭恩賜公園【写真:写真AC】
井の頭恩賜公園【写真:写真AC】

 生物が生きる上で必要不可欠な「水」。それだけに「水」にちなんだ地名は全国各地に存在し、使われる漢字にも傾向があるようです。40年以上の歴史を誇る日本地名研究所(神奈川県川崎市)の協力のもと、地名の豆知識を紹介する「Hint-Pot 地名探検隊」。今回は東京都のオアシスともいわれる井の頭恩賜公園から出発です。この「イノカシラ」にはどんな意味が込められているのでしょうか。

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「井の頭(イノカシラ)」の「イ」は“水の湧き出るところ”

 東京都武蔵野市と三鷹市にまたがる井の頭恩賜公園。水と緑が豊かな都立公園として知られ、近隣の方なら一度は訪れたことがあるでしょう。園内には湧き水で有名な井の頭池や神田川起点など、見どころがたくさんあります。また、2001年に開館した「三鷹の森ジブリ美術館」も人気要因の一つです。

 東京23区の西側と多摩地区にあたる武蔵野台地には、多摩川が流れています。この川がかつての地殻変動などで流れを変えたことで、その伏流水が現在の井の頭公園付近を形成しました。

 この「井の頭(イノカシラ)」の「イ」は“水の湧き出るところ”という意味。井戸も水が湧き出ている場所を表しています。その水の湧き出る先端が「カシラ」のため、「イノカシラ」になるというわけです。

 一方で、川の流れ出る場所は「井尻(イジリ)」または「井戸尻(イドジリ)」と呼ばれ、こちらも地名の由来です。また「イノクチ」という地名も多くあり、「井ノ口」「井口」「猪口」などの漢字をあてています。灌漑用水などの流れ口を表す場合が多く、「イジリ」と似たような地域であることが確認できます。

全国で見られる「井」が付く地名 水が流れる先で呼び名は変化

 また「イノハナ」と呼ばれる場所は、漢字で「井ノ端」と書きます。端(ハナ)は崖の先端を表し、崖から染み出る水を生活用水や農業用水として使ったことから付けられた地名です。「猪鼻」の字をあてる場合もありますが、“イノシシの鼻”としたことに他意はないようで、音の響きをユーモアにとらえて書いたものです。

「イ」が付く地名には、東京都杉並区の「上井草」「下井草」があります。「イグサ(藺草)」は畳の材料で湿地の植物。善福寺川の源流近くにあり、湿地を意味する「クサ」が付く「上井草」「下井草」は、かつて湿地帯を形成していたと思われます。

 江戸時代の文書などには「イ」を「井」と書いた井筋の表記がよく出てきます。用水など水の流れを意味しており、その水の流れがどこに通じているかが重要でした。少しの水も有効に活用することが求められていた時代ですからなおさらです。

 水に関連する言葉として「イケ」や「イズミ」も思い浮かべるでしょう。井戸のことを「イケ」と、池を「ユツ」と呼ぶ地域もあります。「イズミ」の元は「井住み」で、昔の人は泉の湧くところを見つけて住居を営み、集落を作ったことから生まれた地名です。井戸を掘る技術が十分発達していなかった頃、泉は自然の飲料水源として貴重でした。

 品川区の「大井(オオイ)」も水にちなんだ地名です。神域からいただいた大切な水として、大井にある原の水神池から滝王子稲荷神社の池に通じ、伏流水となって光福寺の境内に湧く。これが「大井の井」と呼ばれ、地名の由来とされています。

(Hint-Pot編集部)