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似ているようで似ていない地名の不思議 「野」と「原」の背景にある開拓の歴史とは
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教えてくれた人:日本地名研究所
地名研究を40年以上続けている日本地名研究所(神奈川県川崎市)の協力のもと、地名の由来を深掘りする「Hint-Pot 地名探検隊」。今回は全国に点在する「原」の名が付く地名をクローズアップします。開拓や開墾とは切っても切り離せない日本において、その呼び名はさまざまなものに転じていきました。一体どんな歴史があったのでしょうか。
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「原」は中世の荘園制度とも密接な関係がある地名
「原」は関東では「ハラ」と呼びますが、九州や沖縄では「ハル」や「バル」と呼び方が変わります。これには何か意味があるのかという問い合わせがありますが、お答えするためにはまず「野」と「原」の意味の違いを説明する必要があります。
「野」が付く地名としてよく知られているのが武蔵野です。相模野や嵯峨野なども有名ですね。一般に「野」は、開発される前の姿を意味していました。人間生活が常時行われていないところであって、「野」には異なる種類のものが住んでいるという考えがありました。
一方、「原」は「墾る(ハル)」のことで、開墾してできた土地のことです。読み方としては九州の方が原型かもしれません。これは近代の開墾地名というより、古代から繰り返されてきた開墾後にできた集落を意味します。
ハルに漢字にあてた地名としては他に「春」「治」「榛」「針」などがあります。神奈川県相模原市は相模野台地を開墾したことによる地名で、相模原をはじめ多くの市町村が誕生しています。三春の滝桜で有名な福島県田村郡三春町は「御春」とも書かれ、16世紀頃まで存在した荘園「田村荘」の一部でした。ここは中世に置かれた「見張」から転じたともいわれますが、「御墾田」と考える方がしっくりきます。
滋賀県長浜市春近も近くに荘園「春近荘」があり、現在までその地名が継承されています。富山県射水市には「榛山荘」がありましたが、その後は「針山新村」から「本江針山」と改称されました。これは榛山の字が針山に改変されたもので、荘園開墾に関係する地名です。
一方、九州全般で「ハル」は台地のことを指します。開墾前の「原」を「ハル」と読むのは「治る」「墾る」という語義からきていますが、「ハル」と「ハラ」が混在しているのも事実。九州の「ハル」には平坦地だけでなく、傾斜地にも使用されています。さらにこれは焼畑による開墾などにも関係しているのではないかといわれています。
「原」の字が付けられた地名として、「田原」「小田原」「大田原」をよく見かけます。これらに共通して想起できるのは田んぼのある集落ということですが、実はここに付く「小」「大」はあまり意味がありません。大きい、小さいは関係ないようで、尊称のような接頭語と考えられています。
(Hint-Pot編集部)