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西日本でみられる地名「ハエドマリ」 背景にある自然の影響を避けようとした先人の考え

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

教えてくれた人:日本地名研究所

自然現象にちなんだ地名にロマンを感じてみては(写真はイメージ)【写真:写真AC】
自然現象にちなんだ地名にロマンを感じてみては(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 地形や土地の名産、昔の仕事など、さまざまな由来がある地名。中には目に見えない自然現象が関係しているものもあります。「Hint-Pot 地名探検隊」は今回、“風”にちなんだ地名「南風泊(ハエドマリ)」に注目。40年以上も地名研究を続けている日本地名研究所(神奈川県川崎市)の協力のもと、その意味を深掘りします。

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風の呼び名と“港”が融合してできた地名「ハエドマリ」

「南風泊」と書いて「ハエドマリ」と読みます。“南の風”がなぜ“ハエ”なのか。その意味を探るには、地方により“風”のさまざまな呼び方があることを意識してみてください。

 沖縄では南方を「ハニ」と、南寄りの風を「ハエ」と呼びます。また西日本では南風、主に夏に吹く風が「ハエ」「ハイ」「ミナミ」です。さらに山陰や西九州では梅雨の時期に吹く風を「白南風(シラハエ)」や「ながし南風(ながしハエ)」、鳥羽や伊豆地方では梅雨の初めに吹く風を「黒南風(クロバエ)」などと呼びます。

 変わったところでは、北陸以北の「下り(クダリ)」があります。南寄りの夏風で、快晴の日に吹く風です。江戸時代中期から明治時代後期まで日本海で商船群、いわゆる「北前船」が上方(大阪)から北海道に“下る”際に順風となる南の季節風のことでもあります。

 町村合併などで“消滅”してしまったものも含め、「南風泊」と「南風」の地名は多数あります。「南風泊」は長崎県対馬市上対馬町一重字南風泊や長崎市深堀町南風泊、山口県下関市彦島西山町南風泊港。「南風」は長崎県佐世保市の南風崎町(はえのさきちょう)や沖縄県島尻郡の南風原町(はえばるちょう)などです。

 以上から、「南風泊」の地名にはどのような意味が考えられるでしょうか。まず一般的に「泊」(トマリ)は海岸にあり、船の停泊地(港)を意味します。「南風泊」以外でも「東泊」や「西泊」「寺泊」「小泊」などは、風の影響を受けての避難港や風待ち港でした。面白いことに「東泊」が地形の西側に、「西泊」が東側にあることも、風の影響を少しでも避けようとするところからの地名と考えられます。

 風とは直接関係ありませんが、長崎県長崎市には「京泊(きょうどまり)」という地名もあります。九州と京阪神を結ぶ航路で、参勤交代や藩の蔵米や納屋物の積み出し港として利用されたところから、関西方面へ就航する船の停泊地の意です。

 豊前国下毛郡中津(現在の大分県中津市)に藩庁を置いた中津藩は、現在の同市と福岡県吉富町の境にあった高浜の京泊から物資を送り出し、山口県下関市小月京泊を経由して大阪の港に陸揚げされたそうです。他にも、鹿児島県薩摩川内市港町京泊や佐賀県唐津市肥前町納所京泊などがあり、漁港として存続しています。

(Hint-Pot編集部)