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「由布院」それとも「湯布院」 大分が誇る人気温泉地 地名に隠された意味とは?

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

教えてくれた人:日本地名研究所

由布院のシンボル、壮麗な由布岳【写真:写真AC】
由布院のシンボル、壮麗な由布岳【写真:写真AC】

 日本一の「おんせん県」を名乗る大分県のほぼ中央、由布市に位置する「由布院温泉」。美術館やおしゃれなカフェなど、温泉以外の観光スポットでも有名です。お隣の別府市にある「別府温泉」と並ぶ人気ですが、よく見れば「由布院」と「湯布院」という2つの表記が存在していることに気づくでしょう。一体どちらが正解なのか? 「Hint-Pot 地名探検隊」は今回、そんな「ユフイン」に注目。40年以上も地名研究を続けている日本地名研究所(神奈川県川崎市)の協力のもと、地名の由来などについて深掘りします。

 ◇ ◇ ◇

「由布院」とは“白和幣を保管する正倉”

 大分県由布市の「由布院温泉」は、市街地から少し離れたところに位置する人気の観光地です。ところが、同じ場所に「由布院」と「湯布院」が混在し、どちらが合っているのかと悩んだ経験がある方もいるのではないでしょうか? 結論を言えば、地元ではどちらも正解。目くじらを立てることでもないようです。

「由布院」と「湯布院」が混在する理由の一つには、町村合併による名称変更があります。1955年(昭和30年)に由布院町と湯平村が合併した際、両町村の文字を取って湯布院町になりました。つまり、湯布院は合成地名です。

 さらに2005年(平成17年)には、湯布院町と挟間町、庄内町が合併して由布市になりました。したがって、現在の正式名称は「由布市湯布院町」であり、現地の旅館などでは「由布院」と「湯布院」を自由に商標として使っています。

 ちなみに「ユフ」は「木綿」と書いて、和紙の重要な原料である楮(こうぞ)の樹皮をはぎ、裂いて糸にしたものを指します。ユフは主に榊(さかき)などにかける幣(ぬさ)として用いられ、神事には欠かせませんでした。

「万葉集」7巻1377に「木綿かけて祭る三諸(みもろ)の神さびて斎(いは)ふにはあらず人目多みこそ」とあります。三諸は神が降臨する磐座、みむろのこと。平安時代の漢和辞書「和名類聚抄」には「木綿」のルビに「由布」とあることから、木綿は「ユフ」であることが分かります。

「イン」は、古代日本の政庁や役所などにあった公的な倉庫「正倉」を垣で囲んだ一区画のこと。平安時代中期になると、正倉を中心とする行政領域の単位が「院」と称されるようになりました。

 こうした歴史的背景から、由布院は“楮の白和幣を保管する正倉”という意味だったことが分かります。

 かつて、院が付く地名は九州南部の日向、大隅、薩摩で多くみられました。しかし現在は「院」を省いて地名としているので、気づかれることは少なくなりました。「院」が残っている地名には「鹿児島県日置市伊集院町」「大分県宇佐郡安心院(あじむ)町」などがあります。

(Hint-Pot編集部)