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地名に「豆」が付いても豆は栽培せず? 穏やかではなかった周辺環境と歴史を深掘り
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教えてくれた人:日本地名研究所
食べ物の名前が付く地名は全国に点在しています。しかし、それらは食と無縁の場所であることも……。40年以上も地名研究を続けている日本地名研究所(神奈川県川崎市)の協力のもと、地名の由来を深掘りする「Hint-Pot 地名探検隊」。今回は「豆」が付く地名をクローズアップしてみました。一体どんな歴史があるのでしょう。
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厳しい環境の地に付けられた「イカ」の地名 伊香保温泉や伊賀の里も
前回は、崖などがあり地形的に厳しかった場所の地名に「ママ」と読む「真間」や「儘」の字が使われているというお話をしました。厳しい地形によく使われる地名は他にもあります。関東有数の温泉地として知られる群馬県の伊香保温泉は、中心にある石段街でも人気です。この地名の由来は近くにある榛名山が「伊香保嶺」と呼ばれていたこと。「イカホ」は「厳し(いかし)」からくる火山のことで「厳穂」とも書きます。
「イカ」の呼び名がある地名には、「伊我」「伊賀」「五十」「烏賊」などの字があてられているケースもあります。富山県氷見市にある「五十谷(イカリヤ)」や“忍者の里”として有名な三重県の「伊賀(イガ)の里」も名前の由来をたどると、厳しい地形にあったことを物語っています。
「イカ」のような厳しい環境ではありませんが、谷筋が崩れて岩が堆積している場所に付けられた地名が「アズ」です。埼玉県飯能市の「阿須」については、1800年代の化政文化期に編まれた地誌「新編武蔵風土記稿」の阿須村の項に、入間川の洪水により土砂が崩れ「阿須ヶ崖」という数十丈の崖を作ったという内容の記述があります。
「アズ」に「小豆」の字をあてる例もあります。瀬戸内海の「小豆島」は「ショウドシマ」ですが、古くから「アズキジマ」と呼ばれ、山塊が風化して険しい地形を呈しています。島内にある日本三大渓谷美の一つと称される「寒霞渓」の読み方は「カンカケ」。「鍵掛」「神懸」などの字があてられている場所もあります。これは崩れた崖地や絶壁の表しており、「アズ」と同じような意味を持ちます。
東京都板橋区にある「小豆沢(アズサワ)町」も昔の荒川がこの付近を削り、崖岸(アズ)の地形を作ったことが名前の由来です。「新編武蔵風土記稿」には、上流から小豆を積んだ船がこの付近で難破したという記述も。そこで村人が流れ出した小豆を確保し、お褒めの言葉をいただいたところから「小豆沢」の名が付けられたという話も伝えられています。
一方、「大豆」という地名を「マメ」と呼ぶケースも見られ、地形は「小豆」に似ています。横浜市港北区にある「大豆戸(マメド)町」は、鶴見川が大豆戸の崖にぶつかり直角に曲がっている地点に位置しており、通称「大曲」と呼ばれています。
奈良県には吉野郡東吉野村大豆生(マメオ)や桜井市大豆越(マメゴシ)、奈良市大豆山(マメヤマ)町などの地名があり、地元では大豆の植生などを伝えています。しかし実は、これらの地名の由来は川による浸食崖です。
対照的に、千曲川と犀川の合流点にある長野市大豆島(マメジマ)は、両川に挟まれた土地を開いて大豆栽培を盛んに行ったとされています。地名の由来と豆栽培との関係性は必ずしも一定ではないようです。
(Hint-Pot編集部)