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「カムカムエヴリバディ」で好演の新津ちせ 映画『凪の島』でも見せた“うまさ”とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(c)2022『凪の島』製作委員会
(c)2022『凪の島』製作委員会

 NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(2021-2022)でひなた(川栄李奈)の少女期役を演じた新津ちせさん。父はアニメーション監督の新海誠さんという報道で大きく注目されたこともありましたが、2歳から劇団に所属し、実力で役を勝ち取ってきました。そして12歳の今は、活躍目覚ましい子役として将来を嘱望されています。そんな新津さんの映画出演最新作は、10歳の時にオーディションを受けた『凪の島』。映画ジャーナリストの関口裕子さんによると、本作は新津さんの“うまさ”をしっかりと確認できる内容のようです。

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両親の離婚後、とある島に母と移り住んだ小学4年生の物語

 2021年生まれの子どもに付けた名前ランキングの1位は、女児が「紬(つむぎ)」、男児が「蓮(れん)」なのだという(明治安田生命調べ)。見渡したランキングには、発音した時にかわいらしさやさわやかさが感じられる名前や、こんな風に育ってほしいという願いがこもった漢字が並び、ご両親の並々ならぬ思いが感じられる。

 近年は、男女どちらにも付けられるジェンダーレスな名前が多い。「凪」という名もそういった意味で人気のある名前。女児は25位、男児の名前としても45位にランクインしている。長澤雅彦監督・脚本の『凪の島』の主人公の少女の名前も“凪(なぎ)”だ。

「大辞林」(三省堂刊)は、凪を「風がやんで、波がなくなり、海面が穏やかになった状態」と説明している。その反対語は海が荒れている状態を指す“時化”。凪という名には、穏やかな人生を送ってほしい、または荒れた状態に突入しても穏やかに治まるようにという願いを強く感じる。

『凪の島』は、両親の離婚によって、祖母・原田佳子(木野花)が診療所を営む山口県のとある島に、看護師の母・原田真央(加藤ローサ)とともに移り住んだ小学4年生の凪の物語。

 凪の父・島尾純也(徳井義実)は医師だが、アルコール依存症で現在リハビリ中。離婚は、純也のアルコール依存症が原因となっており、両親が争う様子は凪に過呼吸の症状を起こさせた。海と自然に囲まれた島への移住は、凪の療養の意味もあるのだろう。

『3月のライオン』でも好演 撮影後まで新海監督の娘とは知らなかったスタッフ

 凪を演じるのは新津ちせ。「パプリカ」を歌うために結成された「Foorin」の最年少メンバーとして、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で川栄李奈の演じたひなたの少女期を好演するなど、多方面で活躍する注目の若手俳優だ。

 オーディション時は10歳だったそうだが、ナチュラルな演技で審査する関係者を魅了したという。2歳から劇団に所属している芸歴8年の肝の据わり方は生半可ではない。そういえばと確認すると、羽海野チカ原作、大友啓史監督の『3月のライオン 前編・後編』(2017)で3姉妹の末っ子、川本モモを演じたのも新津だった。

 孤独な少年プロ棋士・桐山零(神木隆之介)を支え、自分たちも行く手を阻む障害を乗り越え、未来を切り開こうと努力する下町の和菓子屋の3姉妹は、原作でも人気のキャラクター。映画化の際は、誰が演じるのかとそれぞれ話題になっていた。特にシリアスな場面を一瞬で笑いに変えるコメディリリーフ的役割を担っていたモモ。児童にどう演出するのかと懸念していたが、意識する間もないくらい難なくこなしていた。

「あれが新津ちせだったのか!?」と確認しつつ、もう一つ驚いたのは、彼女が『君の名は。』(2016)などで知られる新海誠監督の娘であったこと。

 大友監督ら関係者も撮影が終了するまでそれを知らなかったそうで、原作者の羽海野は知った時の驚きを新海監督のツイートにリツイートする形で「最高に愛らしいわんぱくなモモちゃんを本当にありがとうございました! 新海監督の娘さんと知った時みんな倒れそうになったそうです。私も膝がガクガクしました!」と綴っている。

 ただそれは事実として「そうであった」というだけのこと。新津が自身の力で役を勝ち取ったこととはベクトルの異なる話だ。