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記憶障害を持つ女子高生の恋 福本莉子が成長見せる『今夜、世界からこの恋が消えても』

著者:関口 裕子

(c)2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会
(c)2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

 沢口靖子さんや水野真紀さん、長澤まさみさんら多数のスターを輩出している「東宝シンデレラオーディション」。福本莉子さんは2016年の第8回でグランプリを受賞しました。今年11月で22歳を迎える福本さんは、まさに今が俳優としての“成長期”。主演ドラマや映画の数々で見せる演技は、観る側に深い印象を残します。映画主演最新作『今夜、世界からこの恋が消えても』でも、交通事故が元で新しいことを覚えられない女子高生という難しい役柄に挑戦。細かな表情などに、演技者としての大きな成長が見受けられるそうです。そんな福本さんの“実力”とは一体どのようなものなのか? 映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

 ◇ ◇ ◇

「前向性健忘」の女子高生が始めた“発展性のない恋”

 情けなくも歳を取るにつれ、新しく記憶できるメモリーの容量が徐々に小さくなっているのを実感する。仕方ないので大切なことはメモを取るようにしている。だが、後で読み返すと、「いつこんなこと書いた?」と自分を疑うようなことも多々書かれている。恐ろしいことだ。

『今夜、世界からこの恋が消えても』の主人公の1人、日野真織(福本莉子)もいわゆる“メモ魔”。ただし、彼女がメモを取るのは、加齢による物忘れではなく、交通事故をきっかけとする「前向性健忘」のためだ。

「前向性健忘」とは、障害が発生した時点から先に新しく経験したことを記憶できなくなるというもの。反対に、発生以前のことを記憶できなくなるのは「逆行性健忘」と呼ばれ、昼に食べたものは覚えているが昔のことは覚えていないといった症状が出る。どちらも記憶障害の一種で、何らかの理由により記憶と深い関係にある脳の海馬や海馬傍回を損傷することで発症するそうだ。

 前向性健忘を患う高校生の真織は、眠ると事故以前の記憶はそのままに、前日の記憶を失ってしまう。それを知っているのは両親と親友の泉(古川琴音)だけ。そんな状態であることが分かれば、つけ込まれることもある。だから悟られないために、真織は一日の行動を詳細に日記につけ、着ていく服や持って行くもの、そして継続させるべき心の状態をメッセージとして明日の自分に申し送る毎日を送っている。

 真織は、恋もしないと決めていた。それなのに、ふと“何か”を変えてみたい欲求に駆られる。そして、同級生の神谷透(道枝駿佑)がいじめに遭う友達をかばうためにした、“偽の告白”にOKしてしまう。

 その感情は決して“恋”とは言えない。また記憶の継続ができない以上、発展性もない。それでも何かを変えたくなる。人間とは何て不思議な生き物なのだろう。そんな風に感じさせるラブストーリーの始まりだった。

演技者としての福本が面白いのは存在感を自在に変えられるところ

 真織を演じる福本莉子は2016年、高校1年生の秋に第8回「東宝シンデレラ」オーディションを受け、グランプリと集英社セブンティーン賞の受賞をきっかけに芸能界での活動を開始した。「変わりたい。何かに挑戦してみたい」と思っていた頃、友人からオーディションがあることを聞き、「一度きりの人生」だと受けてみたのだという。

 だがダンスや演技は未経験。しかも大阪在住で、土曜日に学校が終わってから東京での2泊3日の合宿審査に合流したため、すでに他の受験者と差ができていた。できるのは昼間のレッスンが終わった後の自主練のみ。合格したのは、「そんな姿を見ていてくれた方もいたのではないか」と、可能性を買ってもらったと考えているようだ。

 演技者としての福本が面白いのは、一見、“華奢で守られる対象”であるように見えて、時に共演する相手を押し出し、時に牽引するキャラクターとして、存在感を自在に変えられるところ。共演者にも「サバサバしている」と言われるように、意外だがあまりおっとりとした性格ではないようだ。

『思い、思われ、ふり、ふられ』(2020)に続き、本作が福本と2度目の仕事となる三木孝浩監督も、「(真織は)弱そうに見えて実は芯の強いキャラクター。福本も根はしっかりしているので、生きるんじゃないかと思った」とキャスティング理由を語っている。

左は三木孝浩監督(c)2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会
左は三木孝浩監督(c)2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

 そんな福本の存在を印象付けたのは、ドラマ「消えた初恋」(2021・テレビ朝日)の橋下美緒役だ。この作品では、『今夜、世界からこの恋が消えても』をダブル主演する道枝と初共演している。小柄でキュートな橋下は、道枝演じる青木が最初に片思いする相手だが、ここではヒロインのポジションだけにとどまらない。思いを寄せる相手が、橋下から男子バレー部の井田(目黒蓮)へと変化して戸惑う青木を勇気づけ、さらにからかう素振りを見せたクラスメイトにも意見する。

 ドラマが人気となった一因に、福本が演じた橋下の存在も大きく貢献したのではないかと思う。橋下の存在が、視聴者と男子生徒たちの恋の距離感を縮めたというか。からかい口調で話す男子に、橋下がビンタをかますシーンには、誇張された演出も相まって笑わされ、何だかホッとさせられた。

 まだ全容は分からないが、7月からスタートしたミステリードラマ「赤いナースコール」(2022・テレビ東京)のヒロイン、三森アリサ役も、きっと見た目とのギャップのある役なのだと思う。ゾッとする怖さを内に秘め、物語のキーとなりそうな存在感を垣間見せる。福本のこの一作ごとの変化も興味深い。

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