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新垣結衣が稀有な俳優である理由 『ゴーストブック おばけずかん』でも見えた力とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(c)2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会
(c)2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

 誰もが認める人気俳優として、数々の話題作に出演している新垣結衣さん。近頃は豪華キャストが話題のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも、放送の度に大きな注目を集めています。そんな新垣さんの最新映画出演作は、児童文学の人気シリーズ「おばけずかん」の実写化作品『ゴーストブック おばけずかん』。とはいえ、夏休みの子ども向け映画と考えるのは少し早計かもしれません。この作品では、新垣さんがこれまでの作品でも発揮していた“稀有な力”が、とても見事に作品と融合しているようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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子ども時代を彩ったジュブナイル そこにある暗黙のルール

 子どもが持つ素晴らしい能力の一つに、「空想の世界で遊べること」がある。幼い頃に読むジュブナイル(児童あるいはヤングアダルト向けジャンル)の書籍とは、そんな空想力を増幅させるもの。だから大人になった今も、その本や映像作品にまつわる記憶は、「最高に楽しかった」というものとなる。

 だが不思議なことに、大人になってから読み返してみると、あの時のような高揚感はない。空想力が失われつつあることも理由の一つだろうが、たぶんジュブナイルには読者である子どもに想像する余地を十分残すため、物語を矢継ぎ早に展開しないという暗黙のルールがあるのだろう。そこが先の展開を求めがちな大人にはつらく感じられるのではないか。

 だから子どもが身近にいないと、ジュブナイルはあまり目にする機会のないものとなっていく。そんな風に“大人が知らないベストセラー”とも言いわれるジュブナイルの一つが、「おばけずかん」シリーズ(講談社刊)だ。

『ゴーストブック おばけずかん』は、これを原作とした山崎貴監督のファンタジー映画。どうしても叶えたい“願い”を持つ少年たちが、枕元に現れた謎のおばけの言葉に従い、怪しい古本屋で「おばけずかん」なるものを手に入れ、そこに書かれた願いを達成させるための条件を一つずつクリアしていく。

『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)などを手がけた山崎監督だけあって、VFX的な見どころも多い。物語のスタート地点となる木造の古本屋が、からくり箱のようにトランスフォームしていく様子などは、大人もワクワクさせられた。

子どもの冒険に大人は不参加というセオリー そこで見せた立ち位置とは

 この作品を観ている時、映画に想像の余地をもたらすキャラクターがいることに気づいた。冒険する子どもたちと旅をする大人、瑤子先生だ。演じるのは、今季のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、最終的に北条義時(小栗旬)の妻となる八重を演じて話題になった、新垣結衣。

 子どもたちを主人公にした映画のセオリーとして、彼らの冒険に大人は参加しないというものがある。『グーニーズ』(1985)や『スタンド・バイ・ミー』(1986)、『ハリー・ポッター』シリーズなど、どれもそうだ。下手をすると、大人は“敵”として設定されることさえある。

 でも、瑤子先生の同行に違和感はない。それは彼女自身、“大人”としての自分の在りようを掴めずにいる存在だからだろうか。地元にUターンした瑤子先生は、祖母の勧めに従ってあまり深く考えずに、主人公らが通う小学校に代替教員として赴任してくる。

 冒頭、やる気のない自己紹介をする瑤子先生。クラスの生徒たちは彼女を直接イジらず、「かわいい人が代替教員になってうれしいでしょう?」と、隣にいる教頭先生を囃す。子どもは自分たちと向き合おうとしている大人かどうか、すぐに察知する。それが生き残るための術だから。本気で向き合わない大人といても守ってもらえない。そう本能が知らせるからだ。

 そんな瑤子先生が、子どもたちとの冒険を通し、変わっていく。一応、「私は大人だから」と、生徒たちのピンチには身を盾にして彼らを守ろうとする。怖くても必死に冷静を保ちながら。

 でもそれ以外の時は、子どもたちと対等にふざけ、意見を言い合う。子どもたちの前だからと、自分でも理解できない“大人”という体裁を取り繕うようなことはしないし、大人がやりがちな子どもが発見する前にヒントを与えてしまうこともしない。瑤子先生の人間性が垣間見える部分だ。