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大河で頼朝の長女役 南沙良が『この子は邪悪』で見せた“じらす技” はかなげな外見の中身は

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(c)2022「この子は邪悪」製作委員会
(c)2022「この子は邪悪」製作委員会

 大ヒット中のドラマ「鎌倉殿の13人」で源頼朝(大泉洋さん)の長女・大姫を演じ、大きく注目された南沙良さん。読者モデルとして芸能活動を始め、2017年に俳優デビューを果たしました。6月に20歳を迎えた今年も、注目度は上昇の一途。片岡翔監督の『この子は邪悪』では、複雑な謎解きサスペンスに挑戦しています。そこで見せたのは、物語を大いに盛り立てる“じらす技”。はかなげな外見の南さんですが、その内面にはやはり芯の強さがあるようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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はかなげな外見とは反対の内面 どんなものも受け止められるキャパの広さ

 声が小さくてはかなげで、思わず守りたくなるような人。そんな容貌の方にたまにお目にかかる。自分とあまりにかけ離れているので憧れるが、外見がはかなげだからといって、内面もはかないかというとそんなことはない。

『この子は邪悪』で窪花(くぼ・はな)を演じた南沙良は、まさに内剛外柔。内面の強さ、いや、どんなものも受け止められるキャパの広さはある種の強さなのだと思う。

 片岡翔監督の『この子は邪悪』は、大きな交通事故に遭い、心身のどこかに傷を抱えた窪家を核に、ある種の家族愛を描く。長女・花(南)は心に、心理療法士の父・司朗(玉木宏)は脚に、妹の月(渡辺さくら)は顔に、そして母の繭子(桜井ユキ)は植物状態になっていた。

 そんな家族に花はわずかだが違和感を抱く。その違和感の元を探るべく、花の家族に近づく少年・四井純(大西流星)と、禁断の扉を開けるという物語だ。

好きなものを好きだと語るピュアな瞳

 南の芸能活動の始まりには、彼女の叔父さんが応援してくれた。小さい頃からずっと俳優になりたいと思っていた南のために、ティーン向けファッション誌「ニコラ」(新潮社刊)の第18回ニコラモデルオーディションの募集を見つけてきてくれたのだそう。1万1256人の中からグランプリの6人に選ばれた時は、小学6年生だった。

 見た目とのギャップはこの時から話題になっていた。彼女の趣味はアニメや漫画を見る、読むこと。そこには円盤(作品のDVDまたはBlu-rayのディスク)やフィギュアといったグッズ、同人誌などの収集も含まれ、現在もかなりの二次元ヲタである。小・中学生の間は何となく親には内緒だったそうだが、成人した現在はオープンに。

 仕事が休みの日の楽しみは、アニメを見ること。そういう時間に幸せを感じるという筋金入りだ。コミケやアニメイベントへの参加も公言してはばからない。そんな風に好きなものを好きだと語る、ピュアな瞳にまずやられてしまう。

映画では“芝居をしない”演技で新人賞 ドラマ「ドラゴン桜」でも注目

 俳優デビュー作は三島有紀子監督の『幼な子われらに生まれ』(2017)。浅野忠信演じるステップファーザーを受け入れることができない小学生・薫を演じた。

 薫のアイデンティティは、母と義理の父の間に子どもができたことで揺らぎ、家庭を崩壊させるくらいの負のパワーを吐き出してしまう。もはや「子どもは可愛いもの」などというきれいごとでは収められない薫の仏頂面と暴言は、そのドスの効いた声とともに、観客に映画を観ていることを忘れさせた。

 南はデビュー作で三島監督からもらった言葉を大切にしているという。「お芝居をしようとしないで。相手からもらったものに対して、役を通して思ったことや、感じたことをぶつけなさい」。

“お芝居をしない”というアドバイスは、蒔田彩珠とダブル主演した2本目の映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018)でも大いに発揮された。演じる際、「芝居をするな」と言われたら、普通は却って過剰に意識してしまうもの。それをやってのけたことが高く評価され、報知映画賞、ブルーリボン賞ほか新人賞を多数受賞した。

 大ヒットドラマ「ドラゴン桜」(2021・TBS系)の何不自由なく育った、飽きっぽくて何かを頑張った経験のない少女・早瀬菜緒役も、それまでクセのある役が多かったからこその新しさがあり、興味深かった。