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安定の秘書職から紆余曲折…ヒット作連発の女性監督 独自視線作った個性的すぎる経歴

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

撮影中の大九明子監督【写真提供:大九明子】
撮影中の大九明子監督【写真提供:大九明子】

 映画やドラマなどに必ず存在するポジションといえば監督。近年は『ノマドランド』(2021)で米アカデミー賞の監督賞を受賞したクロエ・ジャオ氏など、女性監督の活躍も話題になっています。日本では『勝手にふるえてろ』(2017)などでヒットを飛ばす大九(おおく)明子監督が注目の一人です。とはいえ、“職業”としての映画監督には意外と謎が多いかもしれません。その選択はどのようにして生まれ、一人前になるまでどんな道をたどるのか? そこで今回は、新作ドラマ「失恋めし」でも話題の大九監督に、経歴や培われた監督としての個性などについて話を伺いました。聞き手は映画ジャーナリストの関口裕子さんです。

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「サラリーマンを続けていく社会人としての覚悟が足りなかった」

 自分ではいかんともしがたい失恋の痛手をおいしい食とともに克服していく――。そんな人々の漫画をタウン誌で描く漫画家、キミマルミキの恋と成長を綴るドラマ「失恋めし」(Amazonプライム・ビデオにて一挙独占配信中、7月に読売テレビで放送予定)。監督は松岡茉優主演の『勝手にふるえてろ』やのん主演の『私をくいとめて』とヒットを連発する大九明子監督だ。

 大九監督作品の魅力はオフビートなところ。そんな演出の妙味をどんな風に作り上げたのか興味津々伺うと、なかなかパンクなキャリアの話が飛び出した。明治大学政治経済学部卒業後、官庁の外郭団体に秘書として勤めたが4か月で退職。その後、プロダクション人力舎が運営する芸人養成学校「スクールJCA」の第1期生になり、お笑い芸人を目指して活動を始めたのだそう。

 今の時代、安定した仕事を手放すには一大決心が必要だ。しかし大九監督は、大いなる決断のあと芸人の道に入り、紆余曲折を経て映画監督になるという未来を切り拓いた。ものすごいバイタリティ。そんな人生を拓く力はどこから湧いてくるのか? 最初に勤めた官庁の外郭団体を辞めた時について、大九監督はこう振り返る。

「サラリーマンを続けていく社会人としての覚悟が足りなかったんです。社会人になっても学生時代にやっていたコントやお笑いを続けたい。9時5時で働いて、終業後はのびのびやりたいことをやろうと思って勤めましたが、社会はそんな甘くなかった(笑)。仕事の内容に性差があった時代だったこともあり、性差のために戦うことも含めてこれじゃないと。大した覚悟もなく4か月勤めて辞めましたが、親には内緒にしていました(苦笑)」

 就職を決めた1990年は、男女雇用機会均等法が施行されて4年目。女性の就労条件に関する格差はまだ大きかった。