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大河で頼朝の長女役 南沙良が『この子は邪悪』で見せた“じらす技” はかなげな外見の中身は

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

リードとミスリードを繰り返す演出 “じらす技”で貢献した南

(c)2022「この子は邪悪」製作委員会
(c)2022「この子は邪悪」製作委員会

『この子は邪悪』では、家の中の不穏さに気づいた花が、事態の鍵を握る父親に、それをどんな風にいつ切り出すかが見せ場となる。その切り札を使ったことで窪家は、そして花はどうなるのか? そんなスリラー的要素を背負いながら、南はじらせる。じらす技を使う。

 この作品は、さまざまなジャンル映画として成立させることができそうな要素を含んでいる。謎を解くというミステリー的要素や、ティーンエイジャーらの恋の要素、人智を超えた超自然的パワーによる怪異、残忍な犯罪を予感させるスペクタクル……。どこで転換し、どんな展開になっていってもおかしくないだけのベースがあるのだ。

 それを俳優たちがリード、またはミスリードしていくことで、観客はどんな作品なのか、どんな結末を迎えるのか惑い、引き込まれ、より作品に没入していく。南は本来、かなり難易度が高いだろう、リードとミスリードを繰り返すその演出に、特に悩むことなく、難なく貢献しているように思えた。

声の小ささは周囲を引き寄せる仕掛け? 今後も活躍に期待

「花は、心に傷を負っている女の子なので難しい部分はありましたが、自分と似ている部分もあったので、その部分を手がかりに頑張りました」と、うっかりすると聞き逃しそうなくらい小さな声で言う南。「難しい」部分より、「自分と似ている部分を手がかりにできた」ことの方が、彼女にとって勝ったのだと感じた。

 声は小さいが、南には演技に不安を感じることなどないように思う。一度、役を自分の中に落としてしまえば、それは彼女自身となり、確信に満ちる。

 むしろ声の小ささは、周囲を引き寄せる仕掛けなのかもしれないと思わせるほど。小さくなっていく音楽を聞き漏らすまじと人々が集中する、ハワード・ホークス監督の『教授と美女』(1941)という映画の場面を見ているようだ。

 今年の南は、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK)で頼朝と政子の娘・大姫を演じて話題になった。来年は、鈴鹿央士と共演で配信される椎名軽穂原作のネットフリックスシリーズ「君に届け」(テレビ東京・ネットフリックス共同制作)への出演も発表されている。南の活躍を追っていきたい。

『この子は邪悪』新宿バルト9他にて全国ロードショー公開中 配給:ハピネットファントム・スタジオ (c)2022「この子は邪悪」製作委員会

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。