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民族学者の間で見解分かれる 山形県の難読地名「アテラザワ」 由来の有力説とは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

教えてくれた人:日本地名研究所

山形県山形市の北山形駅から山形県西村山郡大江町の左沢駅を結ぶ左沢線【写真:写真AC】
山形県山形市の北山形駅から山形県西村山郡大江町の左沢駅を結ぶ左沢線【写真:写真AC】

 山形県の中央部、西村山郡に位置し、東に日本三大急流の一つである最上川が流れる大江町。その町に「左沢」と書いて「アテラザワ」と読む難読地名があります。左なのになぜ「アテラ」と読むのか? 今回の「Hint-Pot 地名探検隊」は、学者の間でも見解が分かれるというその由来がテーマ。40年以上も地名研究を続けている日本地名研究所(神奈川県川崎市)の協力でお届けします。

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アテラザワという地名の由来は柳田国男の説が有力!?

 山形県米沢市から日本海に流れる最上川。西村山郡大江町には、その中流で大きく曲流するところに「左沢(アテラザワ)」という地名があります。左と書いてなぜ「アテラ」と読むのか――。この地名の由来については諸説あるようです。

 まず最上川の上流から見て、右岸を「コチラ」、左岸を「アチラ」に分けて左の沢を指したという説。また、寒河江城の城主、大江親広が長岡山に登り、西方の山谷を指して「あちらの沢」と呼んだことが「アテラザワ」となり、左の字を当てたという説もあります。さらには、アイヌ語の「アツチャケ(対岸・向岸)」が由来しているという説も。

「アテラザワ」の由来は学者の間でも見解が分かれます。地理学者で民族学者の山口弥一郎は、「アテラザワ」に対して「コチラスワ(右沢)」があるので、「アチラ」「コチラ」の意であると説明。一方で民俗学者の柳田国男は、アテラのアテは“山頂の裏”、つまり、陰地または日陰を意味し、「アテラザワ」とは“日光が十分に当たらない地”のことではないかとしています。

 ちなみに石川県では、アスナロの変種で常緑高木の「ヒノキアスナロ」を「アテ」という方言で呼んでいます。ヒノキアスナロには、日陰でも育ち病害虫や大気汚染にも強いという特徴があるのです。

 そうしたことを踏まえると、「アテラザワ」の地名の由来は、柳田国男の説が有力かもしれません。

 左沢という地名は山形県内に10か所あります。加えて全国には、「当落沢」「阿寺川」「阿寺沢」など、「アテラ」と付く地名も。山梨県上野原市には「阿寺沢川」「阿寺沢」「安寺沢」が、東京都西多摩郡奥多摩町氷川の日原川支流には「安寺沢」があり、山梨の3か所と比較的近い距離にあるため、共通地名と考えられます。

(Hint-Pot編集部)