ライフスタイル
稲荷と書いてなぜ「トウカ」? 関東を中心にみられる地名 呼び方が変わった理由とは
公開日: / 更新日:
教えてくれた人:日本地名研究所
夏が過ぎ、季節は実りの秋へ。一般的に9月中旬からの1か月ほどが稲刈りの時期とされ、多くの稲荷神社では豊作祈願の秋祭りが開催されます。40年以上も地名研究を続ける日本地名研究所(神奈川県川崎市)の協力のもと、地名の由来や変遷などを探る「Hint-Pot 地名探検隊」。今回は、神社の名前にもなっている「稲荷(トウカ)」にスポットを当てました。イナリとも読むのに、なぜトウカに? ここには些細なきっかけがあったようです。
◇ ◇ ◇
「トウカ」の地名にはキツネの呼称という意味も
東京都世田谷区桜丘に地域の鎮守としてにぎわう「稲荷森稲荷神社(トウカモリイナリジンジャ)」があります。また、神奈川県川崎市麻生区王禅寺東には「稲荷森稲荷社(トウカモリイナリシャ)」が。これらの神社は、地元で親しみをこめて「おいなりさんの森」「いなりもり」などと呼ばれています。
そこで気になるのは、イナリモリと書いて「トウカモリ」と読むこと。どうやら、「稲荷」の文字が重複することに違和感を覚えた人が稲荷を「トウカ」と読み替え、次第に「トウカモリ」という呼び名が普及していったようです。
そして、このトウカモリという名の付く神社は字を変えて、さまざまな場所でみられるようになりました。東京都では目黒区の「十日森稲荷神社」、北区の「東灌森稲荷神社」、品川区の「東関森稲荷神社」、大田区の「東貫森神社」。神奈川県では川崎市の「東冠森稲荷社」、栃木県では鹿沼市の「藤冠森稲荷神社」などがその例です。
もちろん、同じトウカモリと付くこれら神社の名前は、単純に字を当てただけでありません。東灌森稲荷神社は太田道灌(室町時代後期に関東地方で活躍した武将)に関係するなど、土地や人物にちなんだそれぞれの理由があります。
民俗学者の柳田国男は著書の「地名の研究」(講談社刊)で、「千葉・茨城二県では狐をトウカと呼ぶのが常である」とした上で、現在の千葉県にあたる上総(かずさ)と下総(しもうさ)の地名として、稲荷峠と堂間表、稲荷塚(以上すべて、とうかんびょう)、東関尾余(とうかんびょ)を挙げています。
ここで書かれているヒョウ、ビヨウは「峠」を示す標識の木を指したもので、のちに境や峠を意味するようになりました。その峠にあった稲荷の祠や、狐が出没するという伝承から生じた地名と考えられます。
例えば、群馬県高崎市稲荷台町(とうかだい)は、台地に稲荷の祠を祀ったことに由来する地名です。また、千葉県成田市稲荷山(とうかやま)にある鎮守宇迦神社は、稲荷を祀っています。
(Hint-Pot編集部)