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成人映画レーベルが50周年に真正面から描く“恋愛” 性別問わず没頭できる理由とは

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

出演した2人にとってラブシーンは“アクションシーン”

『手』を観にヒューマントラストシネマ渋谷を訪れると、夜遅い回にもかかわらず、席は8割方埋まっていた。多いのは男女のカップル。女性1人、男性1人の観客もいるが、総じて若い。終映後は手をつないで出てくるカップルも。何となく皆、体の中に火を灯したかのように上気している。まるで幸せホルモンが分泌されたかのように。

(c)2022日活
(c)2022日活

 主人公のさわ子を演じた福永朱梨は、『本気のしるし』(2020)、『LOVE LIFE』(2022)など深田晃司監督作品や『君の膵臓をたべたい』(2017)など月川翔監督作品でよく見かける。『本気のしるし』で演じた弱そうで強いみーちゃんは特に印象深い。

 そんな福永はこの映画のオーディションを受けた理由を、山崎オコーラの小説のさわ子に自身との共通点を見つけ、演じてみたいと思ったと語っている。

 相手役の森を演じたのは金子大地。「おっさんずラブ」(2018・テレビ朝日)、「魔法のリノベ」(2022・関西テレビ/フジテレビ)などドラマや、『バイプレイヤーズ ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』(2021)、『猿楽町で会いましょう』(2021)など映画で活躍中だ。

 そんな2人は、一番体力を使ったのはいわゆる“絡み”ではないという。2人がピックアップしたのは関係性がもやもやし始めた時の一場面。毅然としているさわ子の横で、森が泣き出すシーンだ。鑑賞後、じれったいほど強く求めあう様子が印象に残るにもかかわらず、彼らの体力を奪ったのは感情描写の演技だった。

「女性の心情をきちんと丁寧に描く中でロマンが生み出される」

 絡みのシーンは“濡れ場”というより、念入りに段取りを行った“アクションシーン”だったと彼らは語る。確かにアクションシーンにおける俳優の仕事とは、段取りを詰めた上で、それをいかに自然に見せられるかということ。絡みのシーンにおいても同様。彼らのラブシーンが印象的であるのは、演技に長けていることに他ならず、2人の感情がリアルに伝わるからこそもたらされたものとなる。

 明確には謳っていないが、ロマンポルノ・ナウの想定観客は女性なのだろう。松居監督は言う。「女性の心情をきちんと丁寧に描く中でロマンが生み出される」ように描いたと。これによって変わったのは劇場内の雰囲気だ。だからこそ女性も男性も安心して作品に没頭し、幸せホルモンとともに帰路に就くことができるプロジェクトとなった。

 どちらかの熱が上がっただけでは恋愛は成立しない。未来は、お互いが好意という熱を体内に宿してこそ展開するもの。『手』は、長いこと勘違いされてきたそれを説得力のある形で変えて見せた。大人が楽しめる恋愛映画の新たなジャンル誕生と言いたい。

『手』 ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中 企画製作・配給:日活

(関口 裕子)

関口 裕子(せきぐち・ゆうこ)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。