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のんがさかなクンを演じるべき大きな理由 『さかなのこ』にあふれる“好きを貫く力”

公開日:  /  更新日:

著者:関口 裕子

(c)2022「さかなのこ」製作委員会
(c)2022「さかなのこ」製作委員会

 日本を代表する“魚好き”といえば、多くの人がさかなクンを挙げるでしょう。ハコフグを模したトレードマークの帽子や「ギョギョ」といった決めゼリフなど、タレントして大きな魅力を放っていますが、魚類学者としても大いに活躍。幻の魚の発見に貢献した際は、天皇陛下(現在の上皇陛下)にも言及されるなど、大きな話題を呼びました。そんなさかなクンの自伝を映画化したのが『さかなのこ』。さかなクンことミー坊を演じているのは、何と女性俳優の“のん”さんです。しかしこの組み合わせ、映画ジャーナリストの関口裕子さんによると、実はかなり相性が良いのだとか。じっくりと解説していただきました。

 ◇ ◇ ◇

夢中であることを親が肯定し続けたさかなクン

 好きを貫くのは大変だ。子どもが好きを貫くのはさらに大変だと思う。まず親という大人の承認を経なければ身動きできないのだから。

 自分の好きの対象は、誰にとっても同等の価値を持つものとは限らない。でも“何となく好ましく思う”程度なら、その対象が何であれ、概ね許される。問題はそれしか見えないほど大好きになってしまった場合。

 経験値から社会で生き残るには、うまく人間関係の均衡を取れることが重要だと学ぶためか、大人は“バランス”が好きだ。だから子どもが“大好き”と偏愛兆候を見せることに危惧感を抱いてしまう。そして子どもも、大人がそんな危惧感を抱いたことを敏感に察知する。もしかするとそうやって“大好き”を心の中の小さな箱に閉じ込めて、または永久凍結させて、大人になった人も少なくないのかもしれない。

 さかなクンの自伝的エッセイ「さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生!~」(講談社刊)をベースにした沖田修一監督『さかなのこ』を観ながら、そんなことを考えた。

 子どもの頃から魚に夢中だったさかなクン。彼の場合は、夢中であることを親が肯定し続けた。魚への愛を貫けたがゆえに得ることができた膨大な知識と、見つめ続けたがゆえに描けた絵が、現在の彼を形作った。親も子も並大抵ではない、と思った。

熱中することと生み出すこと…2つの“大変”を抱えてきたのん

 さかなクンこと“ミー坊”を演じたのは“のん”。ミー坊は帰宅すると一心不乱に魚の絵を描き、学ランのまま海に出て、魚の調査に没頭する。ミー坊にちょっかいを出す不良グループと仲良くなるのも、彼らが魚好きを貫くミー坊に一種の憧れとリスペクトを感じているからだと思う。

 のんもまた“熱中”してきた人だ。彼女が熱中するのはものを作ること。何もないところから生み出すこと。それに果敢に挑み続けている。

 ものを作ることを愛するのんは、「創作あーちすと」を現在の肩書きとしている。2006年に「第10回ニコラモデルオーディション」でグランプリを受賞し、13歳から芸能活動を始めた。2013年放送の連続テレビ小説「あまちゃん」(NHK)のヒロインを演じたことは誰もが知るところ。片渕須直監督から熱烈なオファーを受けて臨んだアニメーション映画『この世界の片隅に』(2016)の主人公すずの声は、すずの立つ場所へと観客を誘う役目を果たした。

 2017年には自ら新レーベルを発足し、「スーパーヒーローになりたい」でミュージシャンデビューした。また同年には、仏パリのルーブル美術館地下にあるショッピング街「カルーゼル・デュ・ルーブル」にてアート作品を展示。2022年には脚本、企画も手がけた劇場用長編映画『Ribbon』で監督を務めた。

 ものを生み出すことも大変なことだ。自分という主格が確固たるものでないと、生み出すのではなく、真似になってしまう。彼女の道程を見ていると、熱中すること、生み出すことという2つの“大変”を抱えてきたことが分かる。

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