どうぶつ
名前は「ヒカリ」に決定 秋田市大森山動物園のユキヒョウ 「奇跡の仔」誕生の軌跡
公開日: / 更新日:
絶滅の恐れがあるとして、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「VU(危急種)」に指定されているユキヒョウ。10月23日の「世界ユキヒョウの日」は、その保護を訴える国際的な記念日です。国内では9つの動物園で計19頭が飼育・展示されています。飼育園同士はユキヒョウを守るため相互協力しながら繁殖を行っており、そのうちの一つ秋田市大森山動物園(秋田県秋田市)で今年4月、同園で22年ぶりとなるユキヒョウの赤ちゃんが誕生。今日11時から開催された命名式で、名前は「ヒカリ」と発表されました。「奇跡の仔」とも呼ばれるこの赤ちゃんが誕生するまでの軌跡などについて、同園飼育員の湯澤菜穂子さんと千葉可奈子さんにお話を伺いました。
◇ ◇ ◇
8年ぶりにユキヒョウを迎えるも…パートナー探しに難航
2022年4月30日午後1時過ぎ、秋田市大森山動物園でユキヒョウの新たな命が誕生しました。6歳の父親リヒトは旭山動物園(北海道旭川市)から、10歳の母親アサヒは多摩動物公園(東京都日野市)から借り受けた個体です。アサヒは何と、ユキヒョウの初産としては日本国内最高齢となりました。
同園は1994年から、メスのライサとオスのパーチによる自然交配での繁殖に4回成功したことがあります。しかし、2007年にパーチが、2010年にライサが亡くなって以降、リヒトを借り受けるまでの8年間、同園からユキヒョウの姿は消えていました。
リヒトを借り受けたのは2018年3月のこと。同園はさっそく、2歳になったばかりのリヒトのパートナー探しを始めました。しかし、繁殖適齢期の独身のメスは当時国内におらず、パートナー探しは難航。辛抱強く交渉を行った中、めぐり会ったのがアサヒです。
ユキヒョウの繁殖にはさまざまな注意点が
そうして2021年3月、アサヒは同園にやって来ました。ユキヒョウらしく警戒心の強い性格ですが、賢くて物分かりが良く、少しずつ新しい環境にも慣れていったそうです。そして約1年後、初めての交尾に成功します。
「ユキヒョウの繁殖は、冬季に行われます。周期的に来るメスの発情の期間に合わせて、野生下でも単独で行動するユキヒョウ同士を同居させるのです。ただし同居にあたっては、狩りをするために鋭い爪と牙を持つユキヒョウ同士が互いに攻撃して大怪我を負うような事態にならないよう、2頭の様子を注意深く観察して、そのタイミングを見計らわなければなりません」
湯澤さんと千葉さんによると、ユキヒョウの繁殖の難しさはそれだけではありません。交尾により排卵が誘発される動物のため、動物園では交尾をしても繁殖につながらないことが多いそうです。そのため、アサヒに妊娠の兆候が見られた後も、偽妊娠ではないかと疑うほど、繁殖の成功に確信を持つことができませんでした。
ユキヒョウの妊娠期間は90~105日。湯澤さんと千葉さんは感動の瞬間に向け、アサヒの栄養管理に気をつけながら、安心して出産できるように産箱を手作りするなど、温かなサポートを続けました。
出産してすぐに母性を発揮したアサヒは「献身的で素晴らしいお母さん」
そうして迎えた出産当日。産気づいて落ち着かない様子になったアサヒの姿を、湯澤さんたちは産箱内に設置したカメラ越しに見守りました。仔の尾が見えてからは、比較的スムーズに娩出。アサヒは初産にも関わらず、出産した仔をすぐに舐めるなど、すぐに母性を発揮したそうです。
「甲斐甲斐しく世話をするアサヒを見て、安心すると同時に驚きました。高齢出産になるアサヒと、まだ繁殖経験のなかったリヒトとの初めてのペアリング。そんな中で誕生した『奇跡の仔』だと思っています。誕生するまではアサヒの偽妊娠を疑うほどでしたので、誕生したのを見て、一気に実感が押し寄せたことを覚えています。また感動する一方で、ここから無事に育ってくれるのか、という不安も大きかったです」
湯澤さんたちの不安をよそに、ユキヒョウの赤ちゃんはアサヒの乳を毎日しっかりと飲んで順調に成長。幼い頃は運動機能や視力の発達などに懸念もありましたが、成長とともにゆっくりと発達し、今では元気いっぱいに跳ね回っているそうです。
「アサヒは熱心に仔の世話をし、危ないことをしないよう見守っています。仔が自分で肉を食べるようになると、エサは必ず仔から食べさせるなど、非常に献身的で素晴らしいお母さんです」