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イノシシの捕獲と意外な共通点 大手警備会社がジビエ事業に参入した理由

公開日:  /  更新日:

著者:河野 正

セキュリティサービス大手起業がジビエ販売に乗り出した理由とは(写真はイメージ)【写真:写真AC】
セキュリティサービス大手起業がジビエ販売に乗り出した理由とは(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 イノシシやシカなどの有害鳥獣による農作物への被害が年々深刻になっています。そこで捕獲した野生鳥獣の肉をジビエ料理の食材に加工し、販売する取り組みを行っているのが、セキュリティサービス大手の綜合警備保障株式会社(ALSOK)グループのALSOK千葉株式会社です。なぜセキュリティ会社が日本ではまだポピュラーとはいえないジビエの販売に乗り出しているのでしょうか。ジビエに着目した経緯などを探りました。

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箱罠に仕掛けるセンサーのセールスがきっかけに

 千葉県での有害鳥獣による農作物への被害額は年間約4億円に上り、農林水産省の最新によると、2020年の国内全体での被害総額はおよそ161億円にまで膨らんでいます。

 主にイノシシやシカに田畑を荒らされ、農作物を収穫できなくなった農家は後を絶ちません。これまでは千葉県内の猟友会が捕獲に尽力してきましたが、捕獲後の処分が重労働であるのに加え、高齢化が進み、各自治体が対応に苦慮しているのが実情です。

 有害鳥獣による農作物被害が深刻化、広域化したのに伴い、ALSOK千葉では2014年から有害鳥獣の捕獲を試験的に始めました。農水省から鳥獣捕獲等事業者として認定された2016年1月からは、業務として本格的にスタート。それまでは被害を受けている個人をはじめ、国や地方公共団体、農業協同組合や森林組合などにしか捕獲が認められていませんでした。

「箱罠を仕掛け、イノシシなどを獲って埋めたり焼却するのが主な業務ですが、千葉県は焼却施設が少ないので、各自治体が指定した場所に埋設することが多くなります」

 ALSOK千葉の竹内崇取締役は、捕獲と捕獲後の処分法についてこう述べると、業務を手がけるようになったいきさつについてこう説明しています。

「私たちはセキュリティサービスが専門ですから、警備事業のノウハウの一つを取り入れたんです。仕掛ける箱罠にセンサーを設置し、イノシシが入ったら知らせるシステムを開発しました。その感知装置をセールスしていた時、茂原市の担当者に『猟友会や農家の人も高齢化し、関われる人が減って困っています。ALSOKさんで何とかできないでしょうか』と相談されたんですね。そこから約2年間のテスト期間を経て、2016年から捕獲をメインにした事業を展開するようになったのです」

捕殺から食肉加工までをシステム化

ALSOK千葉の竹内崇取締役【写真提供:ALSOK千葉】
ALSOK千葉の竹内崇取締役【写真提供:ALSOK千葉】

 地域貢献でもあり、特に地元農家の人たちには助けとなる仕事ではありますが、実際に始めてみると大変な作業であることを実感したそうです。例えば100キロほどの大きなイノシシは、捕獲しても1人や2人では処理しきれません。4、5人いなければ運べず、罠にかかっても大暴れして危険なこともあるのです。

 ここまでは捕獲事業にすぎませんが、ここから奇想天外ともいえるアイデアでジビエ販売に行き着きます。罠にかかったイノシシの肉を売れば、捕獲に要する諸経費をまかなえるのではないか――。社内で知恵を出し合ってその方法を考えました。

 実現に向けては地元銀行の後押しも大きく、「地域にとっては欠くことのできない事業であり、新たな雇用も生まれる」という地方創生事業の観点から、融資を快諾。ただし、具体化する前には懸念もありました。日本人はジビエになじみがなく、食するお店も機会も極めて少ないことです。

 竹内さんは「豚や牛のような家畜とは違い、野生で育っているので衛生的ではなく雑菌も付着しています。後はコンスタントに捕獲できればいいのですが、大きくばらつくと生産が安定しません。ジビエが日本で普及しないのは、こういった問題があるからだと考えました」と振り返ります。

 そこで衛生面については、“安全・安心”をスローガンに掲げるALSOKの真骨頂を発揮。有害鳥獣は通常、箱罠にかかるとその場で電気槍や銃などで捕殺されますが、ALSOK千葉は生きたまま加工所まで運搬することにしたのです。総工費約2億円をかけて建設した茂原市にある「ジビエ工房茂原」では、捕獲から捕殺、食肉加工といった一連の工程を実施。2020年6月に食肉処理業の認定を受け、7月から販売事業をスタートしました。