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イノシシの捕獲と意外な共通点 大手警備会社がジビエ事業に参入した理由

公開日:  /  更新日:

著者:河野 正

捕獲従事者にとっても負担軽減 安定した捕獲量が目標

2019年に新設した「ジビエ工房茂原」【写真提供:ALSOK千葉】
2019年に新設した「ジビエ工房茂原」【写真提供:ALSOK千葉】

 警備会社ならではのシステムも導入しました。捕獲から食肉加工までの工程を画像、日時、場所を情報としてシステムに記録し、生産から消費までの過程を追跡できる情報管理技術を備え、特許を取得。その他にも、国際的衛生管理手法であるハサップ(HACCP)に基づいて施設内で剥皮、解体、食肉加工、検査、真空パック化、冷凍保管、発送までをスムーズに行っています。さらに今年6月には“安全・安心”なジビエ食肉加工施設の証である国産ジビエ認証も取得しました。

 ALSOK千葉では現在、茂原市、富津市、長柄町、長南町、市原市、千葉市、睦沢町の4市3町の捕獲従事者と契約。箱罠にイノシシが入ったと連絡があると保冷車で現地に出向き、捕獲従事者からイノシシを譲り受けますが、それに伴う代金は発生しません。従事者は1頭につき1万円程度の報奨金を受け取ることができ、ALSOK千葉がその行政事務手続きを代行します。従事者は捕獲後も捕殺、運搬、埋設か焼却などを自身で行わなければならなかったのが、捕獲のみで済むようになり、報奨金はそのまま受け取ることができるようになったのです。

 最新鋭の加工所での操業開始から2年4か月が経過しましたが、捕獲や販売は順調なのでしょうか。

 竹内さんは「昨年の1年間でイノシシを793頭、シカを194頭加工しました。最も捕獲できる時期が秋から冬にかけてなので、これから最盛期に入ります。今年は2000頭が目標です。3000頭になれば採算が取れる見通しですが、今はまだ苦しい状況です。そのために今年は市原市と千葉市にも捕獲エリアを広げ、安定供給に取り組んでいます。しかし4市3町でも1日に1頭も獲れない日もあれば、獲れすぎてその日のうちに回収できないこともあるんですよ」と自然を相手にする難しさに言及しました。

これからが最盛期 人気の部位はロース

製品化されたイノシシ肉【写真提供:ALSOK千葉】
製品化されたイノシシ肉【写真提供:ALSOK千葉】

 加工したジビエの主な販路は県内外の料亭や飲食店、卸売業者、ペットフード業者で、通信販売の他、道の駅にも直売所を設けています。イノシシの肉はバーベキューセットや焼き肉、カレー、贈答用セットとしても商品化。イノシシの部位はももやロース、バラ、ヒレ、肩、肩ロースとありますが、竹内さんによると一番人気はロースなのだそう。

「ロースばかり売れて他の部位が残ってしまいますが、肩やももなど硬い部位は加工品に回し、ミンチとしてハンバーグなどに使います」

 加工、販売を開始した2020年7月というと、新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界中を震撼させていた時期です。その後も感染が拡大したこともあり、販売不振が2年ほど続いているのが現状です。

 しかし竹内さんは、「輸入食材の高騰もあり、うちが手がけていることを知った大手企業さんから今年に入って声がかかり、試食会なども積極的に開いています。軌道に乗れば来年末には目処が立つ見通しです」と明るい展望を抱いています。

 民間企業なので、利益を追求するのは避けられません。ただ、竹内さんらこの事業に携わる人々には、地域に貢献しているという自負があります。「今はとても儲かる仕事とはいえませんが、必要とされているのでやめることは考えていません。事業としても成功できるよう、日夜知恵を絞っています」と強い決意を示していました。

(河野 正)