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仕事・人生

158センチ23キロ 拒食症を乗り越えた女性がたどり着いた 食の魅力を伝える仕事

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・出口 夏奈子

「拒食症であることが言い訳に」 人とうまくやっていけないコンプレックス

 当時の菅本さんは、ガムに含まれている調味料の些細なカロリーでさえ気にするような状態。カロリーがあるものはできる限り避け、水やガム、具材が入っていない薄味のスープなどが食事代わりだったそうです。さらに母親が作ってくれたお昼のお弁当でさえも、友人にあげたり……。母親に対する申し訳なさと罪悪感で「精神的にもきつかった」と言葉を絞り出します。

 それでも、菅本さん自身は「太るのは怖かった」と言います。そして「拒食症に守られている部分もあった」と明かしました。

「人とうまくやっていけないのは拒食症だから。ある意味、拒食症であることが言い訳になっていて、自分を守ってくれるものでした。拒食症が良くなっても、もし人とうまくやっていけなかったら……その恐怖感が拒食症から抜け出すのを妨げていたと、今考えれば思います」

 そんな我が子を間近で見ていた家族はどういう反応だったのでしょうか。菅本さんは、「恐らく、どうしていいか分からなかったんだと思います」とつらそうに振り返りました。

「摂食障害の人間にとって、『食べなさい』と言われることが一番苦痛なんです。人の目がもっと気になって食べられなくなってしまう。もちろん初期の頃は家族から『食べた方がいいよ』って言われていたんですけど、そういうことで改善されるわけではないと分かってきた頃には、もう『食べなさい』とは言えなかったでしょうし、放っておいても治るわけではない。本当に『どうしたらいいんだろう』とすごく悩ませてしまっていたんだと思います」

環境が変わり気持ちにも変化が 気づいたら食べられるように

 自分自身にも、そして家族にも、治す術がない状態だった菅本さんが好転していったのは2つの環境の変化でした。

「一つは、私は高校2年生を2回やっているんですけど、2回目の時にすごく仲良くできる子ができたことです。彼女は食べない私に対して『食べなよ』とは言わないし、食べないことも気にしない。もちろん彼女は食べるのですが、食事の席に一緒にいていいんだなって久しぶりに思うことができたんです。そうしたら一緒に食べたらもっと楽しいだろうなって自然と思えてきて、少しずつ食べられるようになっていきました。

 そしてもう一つが、大学に入学して環境が変わったことです。親元を離れて、一人暮らしを始めたことで、周りにいる人たちが“拒食症の菅本香菜”を知らない人たちだらけになった。気がついたら、普通に周りの人たちと仲良くできていたんです。ある意味、拍子抜けしたというか、入学したばかりの頃でしたけど、普通にみんなと一緒にごはんを食べていたんです」

大学入学後、摂食障害を克服した頃の菅本さん【写真提供:菅本香菜】
大学入学後、摂食障害を克服した頃の菅本さん【写真提供:菅本香菜】

 食べ始めてから拒食症を克服するまではあっという間でした。帰省した際に普通に食事をしている菅本さんを見て、家族はずいぶんと驚いていたそうです。菅本さんは当時を振り返り、「人間関係がどうせうまくいかないんだったら……と、もしかしたら自分から壁を作っていたのかもしれません」と語ります。そして、拒食症で苦しむ人とその周りの人たちへメッセージを送ってくれました。

「『食べなさい』って言われたり、『大丈夫?』っていう目で見られたりすると、私は自分自身を否定されているような気持ちになっていたんです。だから、その人を認める、拒食症であるその人自身を当たり前のように受け入れる姿勢が、彼らを救うことにつながるんじゃないかなと思います」

 苦しんだ分だけ人は優しくなれる。自分自身の経験が少しでも今苦しんでいる誰かの役に立つのなら……と、菅本さんはつらかった中学、高校時代の6年にも及ぶ“拒食症の菅本香菜”を語ってくれました。

◇菅本香菜(すがもと・かな)
福岡県生まれ。小学生の頃に人付き合いがうまくいかないことに悩み始め、中学生になると食事を取れなくなってしまい拒食症に。最低体重は23キロと小学低学年女児並みになり入院。しかし高校2年生を2回経験したこと、大学入学を機に一人暮らしを始めたことで、環境が激変。普通に食事を摂れるまでに病気が回復した。大学卒業後は不動産会社の営業職に従事し、その後、元々食に興味があったことから「食べる通信」「株式会社CAMPFIRE」を経て「旅するおむすび屋」として独立。地方をめぐりながら、地方独自の食とおむすびを組み合わせるワークショップを開催。いろんな縁を“おむすび”で“むすぶ”「旅するおむすび屋」として多くの人々を笑顔にしている。

(Hint-Pot編集部・出口 夏奈子)