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80年代アイドル女優からアーティストへ 新作に見るソフィー・マルソー56歳の現在地
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日本でこれまでに人気を集めてきた「海外の銀幕スター」たち。中でも1970年代末から80年代にかけては女性俳優がブームになりました。13歳で出演した『ラ・ブーム』(デジタル・リマスター版12月23日公開)が今年、日本公開40周年を迎えたソフィー・マルソーもその1人。11月に56歳を迎えたソフィーは現在、映画監督としても知られるフランス映画界の大御所です。そんな彼女がフランソワ・オゾン監督の『すべてうまくいきますように』(2023年2月公開)で演じたのは、死を選ぶ権利を求める父親と対峙する娘役。映画ジャーナリストの関口裕子さんによると、この役には『ラ・ブーム』に通じるものがあるのだそう。新旧2作の公開に合わせて、ソフィーの現在とこれまでを解説していただきました。
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大ヒット作『ラ・ブーム』 影響を受けたテレビ番組やCMも
1970年代末から80年代初頭、世界は“アイドル(崇拝の対象)”を求めていたのかもしれない。1978年の日本では『野性の証明』で薬師丸ひろ子が、1979年のアメリカでは『リトル・ロマンス』でダイアン・レインが、そして1980年のフランスでは『ラ・ブーム』でソフィー・マルソーが登場した。もっとも3人いずれの作品も観ることができ、大ヒットしたのは日本だったが。
『ラ・ブーム』における音楽を使った演出の衝撃はすさまじかった。使われたのは、当時流行したSONYの「ウォークマン」。少年少女たちが“アメリカン”と名づけたオールディーズで踊る中、ボーイフレンドのマチュー(アレクサンドル・スターリング)が後ろからヴィック(ソフィー)にヘッドフォンをかぶせる。その瞬間、曲が切り替わるのだ。カセットから流れるバラード「愛のファンタジー」へと。
ヴィックの鼓動を聞いた気がする。この瞬間、彼女は恋に落ちたのだが、衝撃に備える準備のなかった観客の胸もまた、甘くうずいたと思う。多くの観客、特に日本のティーンエイジャーは、映画においてこんなに直接的に胸がうずく体験をしたことはなかったかもしれない。日本では、このシーンにインスパイアされたテレビ番組やCMが多く作られた。
この『ラ・ブーム』と『ラ・ブーム2』(1982)が、日本公開から40年を記念して12月23日から上映される。この「40周年記念デジタル・リマスター版」の告知用メインヴィジュアルのヴィックの写真を見てハッとした。ダンガリーシャツを着たヴィックが、2023年公開予定のソフィー主演の新作『すべてうまくいきますように』(2021)のヒロイン、エマニュエルの醸す雰囲気とそっくりだったからだ。まるで40年後のヴィックを見ている気分。不思議な気持ちになった。
スターになったソフィー ミステリアスというイメージも
『ラ・ブーム』はソフィー・マルソーの初主演作。当時、13歳だった彼女を一躍スターダムにのし上げた作品だ。同時にその大ヒットは、彼女の人生をカメラの標的とし、プライベートを危うくした。
メル・ギブソン製作・監督・主演の歴史ドラマ『ブレイブハート』(1995)やピアース・ブロスナンがボンドを演じた『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999)などでハリウッド進出を果たして以降、特にその傾向は強くなったという。
自分の身を守るために、彼女が取った方法は、家に引きこもる、または不用意な発言をしないなど。そうして気を配ったために、“ミステリアス”、“近寄り難い人”というレッテルを貼られることもあったという。
「このイメージに一番驚いているのは私です」とソフィーは語っている。「企画のために私に会いたいなら、そう伝えてくれればいいだけです。ミーティングには当然のことながら応じているのだから」と。
彼女は5本の作品を撮った監督でもある。だから製作サイドの気持ちも十分に理解している。「私は人と良き関係を築くことも、真摯に企画について話し合う場もが好きなのです。それに人が思っている以上に時間もある」のだと語る。
そんな思いをしながらも、コンスタントに俳優と映画監督としての活動を続けてきたソフィー。でも監督、主演を務めた「Mme Mills, une voisine si parfaite」(2018、日本未公開)以降、少しインターバルを設けた。「俳優にはインプットする時間や考える時間が必要だ」とソフィーは言う。コロナ禍に入ったこともあり、ペースダウンして世界を見つめ直していたのだと。