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タワマンの見晴らしが悪くなったことに悩むマダム 「眺望権」は主張できる? 不動産のプロが解説

公開日:  /  更新日:

著者:和栗 恵

教えてくれた人:姉帯 裕樹

眺望が売りのひとつであるタワーマンション(写真はイメージ)【写真:写真AC】
眺望が売りのひとつであるタワーマンション(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 タワーマンション最大の魅力の一つが「眺望」。通常、マンションの資産価値が「立地、周辺環境」で決まるのに対し、タワマンは「眺望、方角」がプラスされ、より良い眺望の部屋は価格の下落がなだらかであるといわれています。超高層ビルの建築ラッシュが始まる前は、まるでランドマークのようにタワマンがそびえ、その眺望を遮るものはありませんでした。ところが近年、タワマンをはじめとする超高層ビルの建築ラッシュとなり、眺望が台無しになってしまったという嘆きを聞くことが増えています。そうした悩みを抱える女性にお話を伺いました。アドバイスは東京・中目黒で「コレカライフ不動産」を営む不動産のプロ、姉帯裕樹さんです。

 ◇ ◇ ◇

隣に建ったタワマンで窓からの景色が激変

 今回の相談者は、港区にあるタワーマンションの高層階に居をかまえる結城江梨香さん(仮名・67歳)。3人のお子さんはすでに独立しており、現在は外資系企業で働く夫と二人暮らしです。以前住んでいた世田谷区の戸建て住宅は10年ほど前にお子さんへ生前贈与し、竣工したばかりの新築タワマンに転居しました。

 江梨香さん夫妻はタワマンを決める際、同時期に竣工するマンションのモデルルームを片っ端から見て歩いたそう。その中でも、少し離れたところに大きな公園があり、東京湾まで見渡せる抜群の眺望が決め手になり、現在の部屋を購入しました。

「とても気に入っていたのに、2~3年前、私たちが住むマンションのすぐ目の前に、新しくタワマンが建っちゃったの。気づいたときにはすでに基礎工事が始まっていて……。夫が調べたところ、こちらより数階高い物件が建つっていうから、慌ててマンションの住人何人かで施工会社に文句を言いに行ったんだけど、『説明会はすでに終わっています』ってけんもほろろに追い返されちゃったのよ」

 現在、江梨香さんの部屋からの眺望は、隣のタワマンがその大部分を占め、大好きだった景色を見ることができなくなってしまいました。朝起きて、カーテンを開けると目に入ってくるその建物を見るたびに、苦々しい思いが胸の奥から湧き上がってくると江梨香さんは語ります。

「同じ悩みを持つ人たちと結託して、隣のタワマンを訴えるべきではないかと理事会に働きかけたの。でも、低層階にお住まいの方は『私たちの部屋はもともと眺望が悪かったから、その向こうにタワマンが建っても変わりはないし、興味ないです~』とか言って、協力すらしてくれないのよね。それにも腹が立ってしまって……。夫に相談したところ『眺望権』っていう権利があるそうなので、本当に訴えてみようかしらって話している最中なんだけど……」

気になる「眺望権」とはどういうもの?

 江梨香さんのお悩みに対しアドバイスをくれるのは、中目黒「コレカライフ不動産」の姉帯さん。現在は主に賃貸物件を扱っていますが、不動産物件に関して手広く手がけてきた不動産のプロです。まずは、江梨香さんが訴訟の根拠にしようとしている「眺望権」について教えていただきましょう。

「あまり聞き慣れない言葉だと思いますが……。簡単に言うと、その建物を所有して眺望を享受してきた人がその景色を今後も眺めることができる権利をいいます。たとえば、富士山が見える別荘地でその眺望を遮るように大きな建物を建てることはできません。そうした場合に使われるのが『眺望権』です。しかし、残念ながら法律上に規定されているものではないので、裁判を起こしたとしても良い結果にはならないと思います」

「Hint-Pot」編集部でも調べてみたところ、2008(平成20)年に大阪地裁にて、超高層マンションの高層階を購入した住民らの眺望権が認められなかった事例がありました。こうした事例からも訴訟は難しいのでしょうか。

「訴えるのは自由ですので、弁護士など法律のプロに聞いてみてください。ただ結局のところ、建築基準法に沿って建てられてしまったものをなくすことはできないんです。なので、訴えたところで眺望を変えることはできません。そこは覚悟しましょう」

 また、姉帯さんによると、こうした揉め事に巻き込まれないためにやっておくべきことがあるそう。

「まれではありますが、たとえば業者側が『永久的にこの眺望が失われることはない』と謳っていた場合、証拠として書類や言質を保管しておくといいでしょう。また、物件を購入する際に、周辺で大規模な開発が予定されているかどうか調べることも大切です。不動産屋である僕が言うのもなんですが、こうした売り手側の甘い言葉に騙されすぎないことが、不動産を購入する際にもっとも大事なことだと思います」

(和栗 恵)

姉帯 裕樹(あねたい・ひろき)

「株式会社ジュネクス」代表取締役。宅地建物取引士の資格を持ち、不動産取り扱い経験は20年以上を数える。独立した現在は目黒区中目黒で不動産の賃貸、売買、管理を扱う「コレカライフ不動産」として営業中。趣味はおいしいラーメンの食べ歩き。