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「納得させられなかったのが心残り」 緩和ケアを拒否する末期ガンの夫を支えた妻の心のやり場 「孤立しない、させないが大切」

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・白石 あゆみ

東京医療保健大学の櫻井智穂子准教授【写真:Hint-Pot編集部】
東京医療保健大学の櫻井智穂子准教授【写真:Hint-Pot編集部】

離れた家族や友人は日常生活のサポートを中心に

 家族や友人に終末期の患者がいる場合どのように対処すべきなのだろうか。

 なるべく多人数で向き合うことが理想だが、配偶者やとりわけ関係の良い子どもなど、誰かひとりに介護や看病の比重が偏りがちな場合が多い。その際に櫻井氏は、「孤立しない、させない」ことが大切だという。

 例えば、家族や友人の中で介護を一番に担う人がいれば、時々介護を変わってあげることもいいが、買い物を代行するなど、生活のちょっとしたことを手伝うだけでも、介護者の気持ちは大きく違うという。自宅療養をしている患者がいると、介護者は目を離した隙に何かあるのではないかと、外出を控えてしまうことがよくあるそうだ。

「時々介護を代わってもらうのも嬉しいと思いますが、ちょっとした日常の手助けをするのが良いと思います。孤立するのが一番辛いので顔を出して関わりを持つだけでも、大きな助けになると思いますよ。案外、直接のケアは介護者ならではのスタイルややり方があったりするので、お願いしていないのに無理やり介護を代わったり、代わった際に介護者のやり方を大切にしてあげてほしいです。逆に介護者は自分が求めていることを手伝ってもらえるよう、意思表示をするのも大切でしょう」
 

辛いときは吐き出す場を探すことも大切

 では、患者の死後、Aさんの妻のように後悔をしたり、気持ちが落ち着かず涙が出てこなかったりと、感情のやり場に戸惑っている家族がいる場合はどのようにサポートしていったらいいのだろうか。

「ご本人が“戸惑い”に気付いているということは、正常な状態だと思います。亡くなったことが頭でわかっていても心がついていかないときは、自然に任せて普段の生活を続けていくのが大切です。周囲の人は、亡くなった方の話を一緒にしたり、何気ない生活をサポートしていくことで、段々と気持ちが整理されていくのではないでしょうか」

 加えて、もし大切な人の死を前に極端な自暴自棄の状態になっている人がいたら、すぐに専門機関に相談しに行ってほしいと櫻井氏はいう。アルコール依存症や自傷行為など、命に係わる危険な行為をしている場合は緊急事態だ。また、何年か経ってから、鬱や依存症といった症状が出てくることもあるそうなので、しばらくは注意が必要だと説明する。

「私の経験上、性差のひとつだと思いますが、女性は周囲の人とのおしゃべりで発散できる方が多く、逆に男性は自分の気持ちをお話するのが苦手な方が多い傾向にあると思います。そこで、男性に限らず喋るのが苦手な方は、手記や最近であればブログなど、文字を使った心の整理がおすすめです。溜め込まず、自分に合ったやり方で気持ちを表出することが大切ですね」

 また、櫻井氏は「遺族会」もぜひ利用してほしいと語る。遺族会とは、家族を亡くした人達の集まりのことで、団体によって体験談を語り合ったり、相談窓口をつくったりと様々なスタイルがあり、病院HPなどにその情報が掲載されていることが多いという。自分を解放できる場所、気持ちを落ち着ける場所の候補のひとつになるだろう。

 終末期患者や遺族が「孤立しない」ことが大切だと、繰り返し語る櫻井氏。少子高齢社会の今だからこそ、家族や周囲の人たちの関わりも見直しをするべきときなのかもしれない。

※編集注 「緩和ケア」は、がんと診断された時から提供されるものであると第2期がん対策推進基本計画(平成24年)で示されており、必ずしも終末期に限って提供されるものではありません。
 

◇櫻井 智穂子(さくらい・ちほこ)
東京医療保健大学 医療保健学部 看護学科 准教授。看護学博士/看護師/保健師。2010年千葉大学大学院看護学研究科修了。同大学院看護学研究科(特任講師)を経て2013年より現職。研究テーマは、「エンドオブライフにかかわる意思決定に関する研究」「終末期の緩和を目的とした療養についての患者と家族の決断を支える看護援助に関する研究」。

(Hint-Pot編集部・白石 あゆみ)