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なぜ「IKIGAI」は海外でベストセラーに スペイン人著者が分析する生きがいの価値
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「生きがい」が「IKIGAI」として世界に広まっています。スペイン人のエクトル・ガルシア氏とフランセスク・ミラージェス氏が日本語の「生きがい」というワードに着目し、その意味を探究・解説した「IKIGAI」を2016年にスペインで出版しました。100歳以上の人の割合が多い沖縄県北部の大宜味村に足を運び、長寿の秘密を取材した同書は瞬く間に世界に広がり、総発行部数は500万部を超えるといいます。
同書はなぜ、世界でこれほどの人気を博しているのでしょうか。「Hint-Pot」では日本の地方創生活動に取り組む2人の高校生に、著者のひとりであるガルシア氏へのインタビューを実施してもらい、「IKIGAI」が世界的人気となった理由に加え、著者が見る日本や沖縄北部の価値を掘り下げてもらいました。前編では、同書が世界的ベストセラーとなった背景に迫ります。(取材:高村凛太郎、佐藤紅)
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長寿の秘密「IKIGAI」 世界的長寿エリア沖縄・大宜味村の人々の生き方に脚光
――「IKIGAI」が世界的ベストセラーになっています。大宜味村を取材した同書では、腹八分目の習慣や人々の助け合いの絆、生きがいがもたらす効果などを丁寧に解説。私たちもこの本を読んで改めて、日本人の生き方にこのような価値があるのだと知りました。本を執筆するにあたって、ガルシアさんにはどのような思いがあったのでしょうか?
「この本は、自分の人生をどうすればいいかというところから始まったんですね。これは僕の弟に聞かれたんですけど、『I don’t know what to do with my life.(自分の人生で何をすべきかわからないんだ)』と。当時、僕の弟は28歳かな。自分の人生をどうすればいいかわからないと言われて、じゃあ、この本を書いてあげようかなって(笑)。もちろん、弟のためだけに書いたわけじゃないんですけど、この質問がずっと僕の頭に残っていました。
それでスペイン人作家のフランセスク・ミラージェスと、生きがいについての本を書くことになりました。僕はもともとエンジニア。フランセスクはスペインで村上春樹さんのような小説家で、小説を50作くらい出版しています。僕はアイデアマンで、彼は文章がすごくきれいだし、僕たちのコンビは良かったと思います」
――「IKIGAI」のメッセージはなぜ、こんなにも世界に広がったと思いますか?
「僕は何かを書くとき、自分自身のために書くと、世界中の人々もそれを理解してくれると信じているのです。だから、弟のこともありますけど、僕は『IKIGAI』を自分自身のために書きました。そうすると、みんなの心に響く。逆に、“この本は売れそうだから書く”やり方だと、あまりいい作品になりません。
不思議なことに、『IKIGAI』の読者には僕と同世代の40代だけでなく、10代や60代、70代など幅広い年齢層がいるんですが、大宜味村で長寿の人たちのインタビューを行ったことも良かったのだと思います。僕はずっと大宜味村のことが気になっていて、なぜ日本人は世界で一番長生きするのだろうと不思議に思っていたのです。だから自分で直接訪れて、話を聞いて理解したかったし、いろいろなことを全部混ぜ合わせたらこの作品になりました」
――この本では「好きなこと」「得意なこと」「人や世の中に貢献できること」「報酬をもらえること」という4つの要素に共通することが、その人の「生きがい」と解説していますね。
「フランセスクの友人のケン・ロビンソン氏がもともと、最初の3つの要素を挙げていました。その後、マーク・ウィン氏がお金の要素を加えて4つの要素として、僕がそれら4つの要素の中心に生きがいの言葉を入れました。本当にたまたまなんですが、ここまで流行るとは思っていませんでした(笑)。
本の中では生きがいを『存在理由』と書いていますが、沖縄の人に言わせると『朝起きる理由にほかならない』みたいですね。いろいろな研究で、仕事を辞めて何もしない人は、大きな病気にかかりやすいというデータが出ています。一方で、日本人は仕事を辞められない人もいるし、辞めてもほかのことをやる人もいる。
大宜味村の人たちの行動原理には、この4つの要素が入っているんです。スペインの田舎に行くと、何もしない人がほとんどですが、大宜味ではほぼみんな何かをやっています。80歳だけどタクシーの運転を毎日4時間やっている人とか、『別にお金はいらないんだけど、やりたい』と。それはスペイン人には不思議なことなんですね。スペイン人は何もしない。僕の親は70歳で引退して、仕事を辞めた後に何をすればいいですか? となるけど、そういう人にこの本はぴったりだと思います」