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なぜ「IKIGAI」は海外でベストセラーに スペイン人著者が分析する生きがいの価値

公開日:  /  更新日:

著者:高村凛太郎、佐藤紅

「海外でも『生きがい』の言葉を使い始めている」

――「生きがい」にあたる言葉は英語にはないということですが、世界的にもまれな言葉なのでしょうか?

「ないですね。だからヒットしているんだと思います。『生きがいの言葉、ありがとう』と日本に僕はいつも言ってる(笑)。だけど、世の中にある生きがいの意味は、この本の影響で少し変わってきています。『ただの生きがいですよ。本はいらないって思うかもしれないけれど、人生のテーマになるほどに大きな意味を持ってきていますね』って僕は言うんですけど(笑)。

 ただ、この『生きがい』というキーワードがあると、いろいろと伝えやすい。僕は米国のロサンゼルスにも行ったんですけど、みんなこの言葉を使い始めていますね。たとえば、子どもに『大人になったら何になりたいの?』って聞くのもいいんだけど、『あなたの生きがいはなんですか?』と聞くと、相手もびっくりするんですね。もっと深く考えさせるんですよ」

――改めて、ガルシアさんの生きがいはなんでしょうか?

「文章を書くことですね。『複数の生きがいを持ってていいんですか?』とよく聞かれるんですけど、それでもいいんですよ。家族だったり、食べることだったり、ゲームをすることだったり。だけど、僕は生きがいを絞るために、4つの要素に当てはまるかを考えたほうがいいと思っています。先ほど説明しましたけど、生きがいは、具体的には『好きなこと』『得意なこと』『お金をもらえること』、そして『人や世の中を助けること』につながることだと思っています。

 僕は文章を書いていればハッピーだし、書くことも少しずつ上達しています。これでお金をもらえるようにもなったんですね。それと、僕は誰かを助け、いい世の中になるようなことを書こうと思っています。この4つの要素をまとめていくと、自分の生きがいになるんですね。これは逆に、『人や世の中を助けること』から発想してもいいと思います。4つのどれにも当てはまらないのなら、続けるのを辞めた方がいいかもしれない」

――私たちのような10代も将来、生きがいを持てると生き方も変わっていくと感じます。ガルシアさんは今の10代、20代の若者たちにどんなことを期待しますか?

「僕はオプティミスト(楽観的な人間)です。若者も、これからどんどんいい世の中になると考えたほうが、全体がそういう方向に向かうと思うんですよ。それはすごく大事。これは『IKIGAI』を書いたあとに考えたんですけど、人間には希望が必要なんですね。希望があると頑張れる。逆に暗くなると、これもダメ、あれもダメ、経済もダメと、大変な気持ちになるんですね。希望を持つと人の心が変わってくる。それが最近、コロナのせいなのかな、ちょっと暗い感じになってるんですね。だから、これから若い人たちが、オプティミストになることを期待しますね。

 あと、たとえば僕は昔、『IKIGAI』のような本を出すことを想像できなかったんですね。だから、人は誰でもすごいことをできると思ったほうがいい。自分も何かを頑張れば、想像以上にすごいことを起こせると。僕は20代のときに、それに気づけなかったんです。それは最近の反省です。だから僕は、僕自身にもこう言っています。『Don’t underestimate yourself(自分を過小評価するな)』と。自分はすごいぞって思ってください、若者たち」

■取材後記
 エクトル・ガルシアさんに対するインタビューは、彼の人柄に直接触れてみたいという強い願望から実現しました。彼の著作が私に与えた影響は大きく、文字の向こうに存在する人物に直接会ってみたくなったのです。

 ガルシアさんは若い世代に向けて、「Don’t underestimate yourself. 自分はすごいぞって思ってください、若者たち」と言いました。その希望は若者だけでなく、全世代の日本人が共有できるものと考えています。日本の「生きがい」を「IKIGAI」として世界に広めたガルシアさんのように、過去の経験や叡智を尊重しつつ新しい価値観を取り入れ、社会全体の成長に貢献する姿勢が、日本の未来をより輝かせる――そう実感するとともに、多くの示唆を得られた機会でした。(高村凛太郎)

◇エクトル・ガルシア
1981年2月25日、スペイン・バレンシア生まれ。作家、ブロガー。2004年、23歳のときに来日。ITエンジニアとして日本のIT企業に勤務する一方、ブログサイト「kirainet.com」を手がけ、2008年にスペインのブログ運営大手ビタゴラスの「ベストブログ賞」(旅行部門)を受賞。同年、初の著書となる「Un geek en Japon」(日本のオタク)を執筆し、2011年に英語版「A geek in Japan」を出版。自身3冊目の著書「IKIGAI」は自身初のミリオンセラーとなる。2012年に日本人女性と結婚。現在も日本に住み、執筆活動に勤しむ。

◇IKIGAI
スペイン人のエクトル・ガルシア氏とフランセスク・ミラージェス氏が日本語の「生きがい」に着目し、2016年にスペインで出版。世界的長寿エリアとして知られる沖縄県大宜味村で数多くの取材を重ね、生きがいの考え方やアンチエイジングの秘訣、大宜味村の伝統やモットーなどを解説している。そのほか、世界の長寿の例やフロー状態(ある事象に没頭し、集中力が非常に高まっている状態)、ダイエット法や健康食、体操などにも言及。「IKIGAI」で描かれているライフスタイルは世界からも注目され、米国、オランダ、インドなどで次々と出版、ベストセラーとなった。日本では「外国人が見つけた長寿ニッポン幸せの秘密」(エクスナレッジ刊)のタイトルで2017年に出版されている。

(高村凛太郎、佐藤紅)