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仕事・人生

世界的長寿地域の希少性 人口減に苦しむ集落をベストセラー「IKIGAI」著者はどう見る?

公開日:  /  更新日:

著者:高村凛太郎、佐藤紅

「IKIGAI」の執筆を経て自身も変化 「より責任感を持つように」

――ガルシアさん自身の「生きがい」に対する考えは、「IKIGAI」の取材や執筆などを経て変化しましたか?

「すごく変わった気がします。ただ、自分がどれだけ変わったかを自分で言うのは難しいですね。僕の奥さんに聞いたほうがいい(笑)。だけど、僕はより責任感を持つようになったんですね。もちろん当時も適当じゃないんだけど、今はもっと自分の書くものに責任を持っている。『IKIGAI』を出版してからインスタグラムやメールで『私はとても憂鬱で絶望していたところ、あなたの本を読んで人生が変わりました!』とお礼を言われることが多い。言葉や文章はいろいろな人の人生を救うんですよ。でもその逆もある。変なことを書いたらいけない。

 それに自分の仕事のやり方も変わりましたね。前はSNSをずっと見ていたけど、今は集中して文章を書く時間を作っています。メモを取るのもパソコンではなく、メモ帳を使ったり。遊びの時間は遊び、仕事のときは仕事、リラックスするときはリラックスするというように、メリハリをつけています」

「出る杭を褒める」ことで、日本にはオリジナリティのある新たなものを作り出してほしいというガルシア氏【写真:徳原隆元】
「出る杭を褒める」ことで、日本にはオリジナリティのある新たなものを作り出してほしいというガルシア氏【写真:徳原隆元】

――ここまでいろいろとお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に現代はさまざまな社会問題などで世界が混乱しています。そのなかで日本に期待することはなんでしょうか?

「さっきもお話しした文化のことですね。もう一度、文化を作る力に期待しています。それは日本だからこそできる。たとえば、インボイス制度が始まります。でもそれで一番影響を受けるのは、漫画家やアーティストのような個人事業主かもしれません。それは国に責任があるんですね。いい環境を作らないと、いい文化が出てこない。

 あとはオリジナリティ。今はリメイクが多いですよね。たとえば、僕の50歳のスペインの友達は『マジンガーZ』の世代。僕はよくわからないけど、彼はすごく好きなんです。僕はその次の世代で『ドラゴンボール』、僕の弟はその次で『ポケモン』。その次を作っていくのは誰なのか。僕は日本に、世の中の誰も想像できないようなアイデアを期待しています。アニメ、漫画だけじゃなくて、たとえば建築家の安藤忠雄さんはすごく不思議な建物を作る。そういうふうに日本で、いい意味で変わったものが、もっともっと出てきてほしいんですね。

『出る杭は打たれる』じゃなくて、出る杭を褒めて、もっと変なものを作り出してください。意味がなくても、いつか何かにつながる。僕はエンジニアリングやソフトウェアの世界にいたけど、そういうマインドセットが必要なんですね。それが消えると、新しい技術が生まれません。

 変わったものを、新しいアイデアを作り出すのも日本の力なんです。日本は小さい国で将来、人口も減るかもしれない。アイデアや文化が一番大事になってくると思います。でもこれは僕の意見です。間違ってるかもしれませんね。でも、みんながアイデアを生み出せればと思っています」

■取材後記
 インタビューを通して、ガルシアさんが生きがいを持って生活していることにうらやましさを感じました。誰もが持つことのできる生きがい。ただ、生きがいを持つことがゴールではなく、あくまで自分の幸せを見つけるための手段です。私はこれを機に、同世代の友人たちと幸せを見つけるきっかけを共有したいと思いました。「IKIGAI」が、自分の知らない世界を知ることで、新しい価値観が生まれると教えてくれたからです。

 私も今、ガルシアさんと同じように沖縄県北部の文化に魅了され、その魅力を後世に引き継ぐプロジェクトに参加しています。ガルシアさんのお話からは、こうした活動が次の社会を変えていく可能性を秘めていると感じられ、そういった面でもとても意義深い出会いでした。(佐藤紅)

◇エクトル・ガルシア
1981年2月25日、スペイン・バレンシア生まれ。作家、ブロガー。2004年、23歳のときに来日。ITエンジニアとして日本のIT企業に勤務する一方、ブログサイト「kirainet.com」を手がけ、2008年にスペインのブログ運営大手ビタゴラスの「ベストブログ賞」(旅行部門)を受賞。同年、初の著書となる「Un geek en Japon」(日本のオタク)を執筆し、2011年に英語版「A geek in Japan」を出版。自身3冊目の著書「IKIGAI」は自身初のミリオンセラーとなる。2012年に日本人女性と結婚。現在も日本に住み、執筆活動に勤しむ。

◇IKIGAI
スペイン人のエクトル・ガルシア氏とフランセスク・ミラージェス氏が日本語の「生きがい」に着目し、2016年にスペインで出版。世界的長寿エリアとして知られる沖縄県大宜味村で数多くの取材を重ね、生きがいの考え方やアンチエイジングの秘訣、大宜味村の伝統やモットーなどを解説している。そのほか、世界の長寿の例やフロー状態(ある事象に没頭し、集中力が非常に高まっている状態)、ダイエット法や健康食、体操などにも言及。「IKIGAI」で描かれているライフスタイルは世界からも注目され、米国、オランダ、インドなどで次々と出版、ベストセラーとなった。日本では「外国人が見つけた長寿ニッポン幸せの秘密」(エクスナレッジ刊)のタイトルで2017年に出版されている。

(高村凛太郎、佐藤紅)