カルチャー
心が調わないときこそのお写経のすすめ 自分を客観的に見つめるお写経で得るものとは
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般若心経の教え 「かたよらないこころ こだわらないこころ とらわれないこころ」を知る
1968(昭和43)年から始まった薬師寺のお写経は、今年で55年。納められたお写経の数は860万巻を超えており、納経料によって復興されたお堂の中で永代供養されるそうです。松久保さんはお写経をする際の心持ちについて、「むしろ調っていないときにこそお写経をやってほしい」と話します。
「よく、『今はちょっと気が立っているのでもう少し落ち着いてから……』とおっしゃる方がいるのですが、そういう方には『むしろ腹が立ったとき、ムカついたときにお写経をやってください』と伝えています。その心は、座禅もそうですが、無になりなさい、空になりなさいと言われながらやってみたところで、無になったことなんてないでしょうし、空っぽになることもないと思います。『常に、そうならなきゃ』と思いながら行っている時点で、頭の中はそれでいっぱいになっているわけです。
最初の文字なんて飛んだり跳ねたり震えていたりするのですが、それを5行、10行、20行と続けていくと、少しずつ整った文字になってくるんです。これこそが、般若心経の教えにある『かたよらないこころ こだわらないこころ とらわれないこころ』を得られている証拠なのではないでしょうか。人間、最後にはちゃんと収まるところに収まるものなんです」
現代人は日々、時間に追われ、忙しく過ごしています。自分を顧みる時間も余裕もなければ、客観的に自分自身を見つめ直す機会もそう多くないのかもしれません。
「各年代やそのときどきの局面によって、見える景色が変わります。今はわからなくても、そのときになれば必ずわかるものです。そういった経験の積み重ねによって、新しい経験の感じ方もまた変わってきます。価値観の変化のなかで私たちは生きていますし、ものの見方や価値観をちょっとだけ変えてくれるのが、お写経なのではないかと思います」
檀家や組織を持たない1300年の歴史を持つ奈良薬師寺の東京別院で、450年前に焼失した奈良薬師寺の堂塔再建を願い、お写経による復興を目的とした関東以北の拠点として1975(昭和50)年に始動した。そのため、薬師如来像が祀られる本堂はお写経道場としても活用されている。
(Hint-Pot編集部・出口 夏奈子)