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中秋の名月 月見団子やススキを飾る理由とは お供え物にまつわる由縁
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2023年の中秋の名月は9月29日。中秋とは旧暦の8月15日のことで「十五夜」とも言います。この日の月を愛でる風習は、奈良・平安時代に中国より伝わったとの説も。日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。今回は、お月見に欠かせない月見団子やススキについて紹介しましょう。
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月見団子はまん丸ではない 高く積み上げ思いを届ける
一年で最も明るく美しい月とされる十五夜、中秋の名月。奈良・平安時代の貴族たちは宴を開き、月夜を楽しみました。しだいにお月見が庶民たちに広まると、秋の収穫を感謝する意味合いに変わっていきます。月は、満ち欠けを繰り返すことから再生の象徴として、豊作をお願いする存在でもありました。各地でさまざまな風習が生まれ、現代のようなお月見の行事となっています。
お供え物として、収穫したサトイモが用いられてきましたが、五穀豊穣を願って米を粉にして丸めた団子も作られるようになりました。団子には、サトイモのようなしずく型をしたもの、真ん中がくぼんだもの、こしあんが巻き付いたものなど地域によって違いがありますが、一般的には月に見立てた丸い白い団子が月見団子として知られています。
月見団子は、十五夜の「十五」にちなみ「一寸五分」(約4.5センチ)の大きさに丸めると縁起が良いといわれています。ただし、丸いといっても実際にはまん丸の球状ではありません。亡くなった人の枕元に供える「枕団子」と区別するため、お月見用は少し形をつぶすそうです。
家庭で月見団子を皿に盛り付けるときは、並べて置くのではなく、山のように高く積み上げると良いでしょう。団子をできるだけ月に近づけることで、感謝の思いや願いが届きやすいと信じられていたからです。数は十五夜から15個、省略して5個、またはその年の満月の数である12個(うるう年は13個)が一般的。盛り付けたら、窓辺など月がよく見える場所に置き、感謝しながら食べましょう。
お月見に飾るススキは秋の七草
月見団子と併せてお月見に欠かせないのがススキです。ススキは日本の秋を表す「秋の七草」のひとつで、尾花(オバナ)とも呼ばれる草花。お月見に飾られるようになった理由としては、次の2つが考えられています。
ひとつは、ススキの穂が稲の穂の形によく似ていることです。中秋の名月は稲刈りシーズンの前。稲穂にまだ穂が実っていない時期だったため、代わりにススキを稲穂に見立てたことから転じて、ススキの豊かな穂のように稲が実るよう願いを込めて飾るようになりました。
もうひとつは、ススキの鋭い切り口に「魔除け」の力があると考えられていたことです。災いから収穫物を守り、次の年の豊作を願うという意味も込められているといわれています。また、お月見のあとに、無病息災を願ってススキを軒先に吊るす風習も地域によってみられます。
「月見泥棒」は縁起が良い
月見団子やススキのほかに、秋の果物や野菜を供える地域もあります。とくにブドウなどつる性のものは、お月様とのつながりを強くするので、お供えに向くと考えられてきました。
お供え物にまつわる言葉で「月見泥棒」があります。これは玄関先に準備したお月見のお供え物や菓子を、近所の子どもたちが“盗み食い”して良いとされる古くから伝わる風習です。お供え物をお月様が食べてくれたと考え、縁起が良いことだと歓迎されました。今では、少子化や防犯などの問題であまり行われなくなった風習ですが、一部の地域では受け継がれているようです。
昔から親しまれてきた十五夜。今年はお供え物をして、じっくりと楽しみたいですね。
【参考】
「暮らしの伝承」蒲田春樹著(朱鷺書房)
「日本のしきたりがまるごとわかる本」新谷尚紀監修(晋遊舎)
「吉を招く 言い伝え 縁起と俗信の謎学」岩井宏実(青春出版社)
「日本のなしなみ帖 縁起物」『現代用語の基礎知識』編集部編(自由国民社)
(鶴丸 和子)
鶴丸 和子(つるまる・かずこ)
和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
インスタグラム:tsurumarukazu