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どうぶつ

虹の橋を渡った愛猫 「次は考えられない」飼い主が保護猫の譲渡会に参加したワケ

公開日:  /  更新日:

著者:峯田 淳

10年をともに過ごした愛猫ジュテの遺影と骨壺【写真:峯田淳】
10年をともに過ごした愛猫ジュテの遺影と骨壺【写真:峯田淳】

 猫を家族の一員としてお迎えする方法として、保護猫の譲渡を選択する人が増えています。ひとつでも多くの命が最期まで幸せに暮らせるよう、理解と協力を求める呼びかけを目にしますが、譲渡会を通じて出会い、お迎えするまでには、どんなことがあるのでしょうか。コラムニスト峯田淳さんが、保護猫活動について連載する企画。初回では、愛猫をがんで亡くしてから失意のなかにいた峯田さんが、譲渡会を初めて訪れるまでを綴っています。

 ◇ ◇ ◇

愛猫ジュテが他界 涙に暮れるなか旧知の保護猫活動家から“悪魔のささやき”

 仏壇の隣の低い和ダンスの上には10年間、一緒に過ごした愛猫「ジュテ」の遺影と骨壺が置かれています。骨壺のカバーはコロナ禍の真っ只中にフランス・パリへ出かけ、ジュテのために探し回って手に入れた、モスグリーンの雫模様のかわいらしいデザインの布の袋です。

 ジュテは「おいで」と言われると、誰にでもついていくような人懐っこい猫でした。人の顔を見分ける賢いところもありました。がん告知はこの世を去る1か月ほど前。懸命の動物病院通いも、看病の甲斐もなく、ジュテは2021年11月に僕たちの前からいなくなってしまいました。

 それから8か月。ジュテのいない生活はたとえが適切かどうかはともかく、泡のないビールのような、いつも空振りしているような気分。空虚で物足りない日々を送っていました。月日が経つのもわからなかったように記憶しています。

 当初、別れがあれほどにつらいものだとは思い至ることができませんでした。死に直面して涙に暮れ、もう猫はもらわない……そう思い続けていました。救いは7年前にやってきた“弟”「ガトー」と、4年前にやってきた“末弟”「クールボーイ」が元気なことでした。どちらも保護猫です。この“兄弟”猫を大切に育てよう……。

(左から)“三兄弟”がそろっていた頃。クールボーイ、ガトー、ジュテ【写真:峯田淳】
(左から)“三兄弟”がそろっていた頃。クールボーイ、ガトー、ジュテ【写真:峯田淳】

 そんなある日、ガトーとクールボーイをお世話してくれたMさんから、お誘いがありました。言い方は悪いかもしれませんが、“悪魔のささやき”です。

「今度の日曜日、お時間ありませんか。譲渡会のお手伝いを頼まれているから、そこに遊びに来ませんか」

 譲渡会は保護猫活動をしている団体などが猫を引き取りたい人に、保護した猫をお世話する集まり、イベントです。Mさんは現在、都内に住んでいますが、2年ほど前までは伊豆高原に住んでいました。猫が好きで数年前から、熱海で保護猫活動の団体をやっている知人の活動を応援していました。保護猫活動をする団体は、地域の人に猫を譲渡するだけはありません。各地で譲渡会を開き、保護したものの、引き取り手のない猫の飼い主を見つけて、譲ってくれるのです。捨て猫、孤猫(みなしご)の里親を探しているのです。

「ジュテがいなくなって半年ちょっと。次は考えられないよ」

 即答しました。

「でも、かわいい猫ちゃんを見に来るだけでいいんじゃない」

 もう新たな猫は飼わないと決めてはいても、ジュテを思い浮かべながら、またあんな愛おしい猫に出会えたら……かすかに気持ちが揺らいでもいました。連れ合いのゆっちゃんに相談すると、「飼う気がないなら、行かないほうがいいんじゃない」と複雑な気持ちを突き放しているような言い方で、反対されました。

ありし日の愛猫ジュテの姿【写真:峯田淳】
ありし日の愛猫ジュテの姿【写真:峯田淳】

 その通りなのは理解しているけど、一度取りつかれた猫熱は理性のタガがはずれるのも簡単なようで、「でもさ、行ってみるだけなら」とMさんに「OK」の返事をしていました。ああ~。

 譲渡会はどんなところで開かれているのか。スペースがあれば、どこでも大丈夫。X(ツイッター)などでも譲渡会の案内が流れたりします。タレントにも保護猫活動を続けている人がいて、開催当日、Xで告知したりしています。情報があれば、誰でもどこでもOKなのが譲渡会です。

 そのときは都心のビルの一室で行われました。飼う気がないのに、なぜかキャリーバッグも持参していました。どれだけ気持ちが揺らいでいるのか。

 日曜日のオフィス街はガランとして人通りがありません。

「こんなところで、本当に譲渡会をやっているのかしら」

 ゆっちゃんは半信半疑の面持ちです。

 Mさんに言われたビルに着いても、人の気配がなく、本当に譲渡会をやっているのかと首をひねってしまいました。

 しかし、エレベーターで3階まで行くと、扉の前に受付の女性がいました。名前を言うと名簿をチェックしています。Mさんがリストに入れてくれていたようです。入り口で手指消毒し、ドアを開けると、まだニャーとも鳴けない、子猫たちのキーキーという幼い声が聞こえてきました。

 これが都心で行われた保護猫の譲渡会の現場です。実は譲渡会に出かけたのはそのときが初めてでした。ガトーはMさんがわざわざ熱海から車で連れてきてくれた猫、クールボーイはMさんが手伝っている、熱海で保護猫活動をしている団体の施設まで出かけて見つけた猫です。その日の譲渡会には、ほかにもいくつかの団体が集まっていました。

 目の前に広がる猫の海には目移りするばかりでした。

(峯田 淳)

峯田 淳(みねた・あつし)

コラムニスト。1959年、山形県生まれ。埼玉大学教養学部卒。フリーランスを経て、1989年、夕刊紙「日刊ゲンダイ」入社。芸能と公営競技の担当を兼任。芸能文化編集部長を経て編集委員。2019年に退社しフリーに。著書に「日刊ゲンダイ」での連載をまとめた「おふくろメシ」(編著、TWJ刊、2017年)、全国の競輪場を回った「令和元年 競輪全43場 旅打ちグルメ放浪記」(徳間書店刊、2019年)などに加え、ウェブメディアで「ウチの猫がガンになりました」ほか愛猫に関するコラム記事を執筆、「日刊ゲンダイ」で「前田吟『男はつらいよ』を語る」を連載中。