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「柿の木から落ちると3年しか生きられない」といわれる理由 柿にまつわる言い伝え
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秋においしい柿。古くから日本人に親しまれてきた果物ですが、「柿の木から落ちると3年しか生きられない」といった、なんともおそろしい言い伝えがあります。なぜ、そういわれたのでしょうか? 日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。今回は、柿にまつわる言い伝えを紹介します。
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柿は日本で古くから食べられていた縁起の良い果物
日本での柿の歴史は古く、縄文時代や弥生時代の遺跡からは柿の種の化石が発掘されています。奈良時代から平安時代に各地へ出回り、宮廷では祭礼用に用いられていたようです。当時は渋柿でしたが、鎌倉時代の頃に渋みのない甘柿が突然変異で日本に登場。江戸時代になると盛んに改良され、たくさんの品種が生まれました。
柿は長寿の木であること、また、喜びが舞い込む意味の「嘉喜(かき)」と読みが同じことから、古くより縁起の良いものとされたようです。栄養も豊富で、寒い季節の食材としても重宝されたのでしょう。
昔は、民家の庭先に柿の木があることは珍しくありませんでした。農村には1軒に1本、柿の木が植えられていたともいわれています。地域によっては、縁起の良さから「柿なます」にしてお正月のおせち料理の定番にしたり、豊作祈願の「成木(なりき)責め」を小正月に行ったりするなど、日本人の生活に密着してきた植物です。
柿の木は、本来は高木性で、剪定をしなければ10メートル以上の高さに成長します。背の高い柿の木は、昔の子どもたちの絶好の遊び場だったのでしょう。しかし、大きく育つ割には枝がもろいとされます。子どもが木登りをして遊んでいるときに、もし枝が折れたら、落ちて大けがをする危険も。
「柿の木から落ちると3年しか生きられない」というおそろしい言い伝えは、遊び盛りの子どもたちに向け、戒めとして生まれたようです。なぜ「3年」なのかは不詳ですが、暮らしを支える大切な木だからむやみに登ってはいけないこと、枝が折れやすく危ないので登って遊んではいけないことを伝えるために、あえて不吉な言葉を使い、子どもたちを守ったとされています。
収穫時に「柿の実は最後のひとつを残す」との言い伝えも
柿にまつわる伝承としてもうひとつ、「柿の実は最後のひとつを残す」という言葉があります。柿の実を収穫する際は、全部をとってしまうのではなく、最後のひとつだけを枝に残しておくというものです。
由縁には諸説あります。一般的なのは鳥のエサとして残す説で、自然の恵みを人間がひとりじめしないという教えも込められていたとか。ほかには「木守り」の説も。地域によっては、翌年も多くの柿の実をつけてもらうために、最後のひとつの実を残して豊作への願いを込めたようです。
現代では、旬になれば当たり前のようにおいしい品種が各地に出回り、店頭に並ぶ柿。昔の人のさまざまな思いや言い伝えを知ると、また違った味の奥深さを感じます。
【参考】
「科学で読み解く迷信・言い伝え」歴史ミステリー研究会編(彩図社)
「吉を招く『言い伝え』縁起と俗信の謎学」岩井宏實著(岩井青春出版社)
「日本俗信辞典 動・植物編」鈴木棠三著(角川書店)
「二ほんのかきのき」熊谷元一 作/絵(福音館書店)
(鶴丸 和子)
鶴丸 和子(つるまる・かずこ)
和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
インスタグラム:tsurumarukazu