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とろろを食べると口の周りがかゆくなる理由とは 栄養やかゆみを和らげる対処法を栄養士が紹介
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教えてくれた人:和漢 歩実
とろろとは、山芋を生ですりおろしたもの。新米の季節、炊きたてのごはんにかけてもおいしいですよね。しかし、すりおろしたり食べたりする際に、手や口の周りがかゆくなることがあります。なぜでしょうか? また、かゆくなったときの対処法はあるのでしょうか? 栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに伺いました。
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かゆくなるのは山芋に含まれる成分が原因
山芋は「ヤマノイモ科」の総称で、一般的に店頭に出回るのは長芋、イチョウ芋、大和芋(つくね芋)です。野山に自生している野生種は「自然薯(じねんじょ)」で、独特の粘りがあります。日本では、生ですりおろしてとろろにし、汁物やそば、ごはんにかけて食べることが多いですが、生で食べられる芋は世界でも珍しいとか。
とろろの語源は定かではありませんが、「とろり」としていることが関係しているとみられています。この山芋のとろりとした粘りを「長く伸びるから縁起が良い」とし、現在も、無病息災を願ってお正月にとろろを食べる「三日とろろ」の習わしがある地域も。古くは厄除けとして、とろろを家の柱などにすりつける風習もあったそうです。
このように日本の食卓で古くから親しまれているとろろですが、すりおろした際、または食べた際に、手や口の周りなどがかゆくなることがあります。症状がひどいと、人によっては痛みや熱さを感じることもあるようです。
原因は、山芋の皮付近に含まれているシュウ酸カルシウム。針状結晶の成分で、文字通り針のようにとがった形をしていて、束状につながっています。山芋の皮をむいたりすりおろしたりするとき、この結晶がばらばらになって皮膚に刺さり、その刺激がかゆみにつながることも。食べる際も、口の周りの皮膚にとろろがつくとかゆくなります。
かゆくなっても「こすらない」 酢などが有効
もし、とろろでかゆくなったら、酢をつけて水洗いすると良いでしょう。シュウ酸カルシウムの結晶は酸や熱に弱い性質を持っています。飲食店でとろろを食べて口の周りの皮膚がかゆくなってしまったら、決しておしぼりなどでこすらないようにしてください。かゆい場所が広がってしまうおそれがあります。かゆみを和らげるため、温水で優しく洗い流すようにしましょう。
自宅でとろろを作る際は、山芋の白い部分に触らず、皮部分を持つようにするのがおすすめ。すべて皮をむいてしまった場合は、持つところをキッチンペーパーで包んだり、あらかじめ手に酢をつけたりしてからすりおろすと、かゆみが軽減されます。また、山芋を冷凍してからすりおろすと針状の結晶が折れるので、皮膚に刺さりにくくなるそうです。
山芋のぬめり成分はガラクタンなどの食物繊維。ガラクタンは血糖値やコレステロール、血圧を調整し生活習慣病の予防に役立つものとして注目されています。このほか、山芋には、コラーゲンの生成に必須で美肌効果に期待できるビタミンCが比較的多く含まれている面も。でんぷんを分解できるアミラーゼと呼ばれる消化酵素もたくさん含まれており、とくに糖質の消化吸収を助けます。薬膳学でも滋養強壮、消化促進、体を潤す効果があるといわれていて、積極的に食卓へ取り入れたい食材です。
ただし、とろろを食べたあとにかゆみがまったく治まらない場合、または胃痛や蕁麻疹など重度の症状が出た場合は、すぐに病院で診てもらいましょう。
(Hint-Pot編集部)
和漢 歩実(わかん・ゆみ)
栄養士、家庭科教諭、栄養薬膳士。公立高校の教諭として27年間、教壇に立つ。現在はフリーの立場で講師として食品学などを教える。現代栄養と古来の薬膳の知恵を取り入れた健やかな食生活を提唱。食を通して笑顔になる人を増やす活動に力を注いでいる。
ブログ:和漢歩実のおいしい栄養塾