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どうぶつ

初めて参加した保護猫の譲渡会 一瞬のうちに吹き飛んでしまった「思い」と生じた「心配」

公開日:  /  更新日:

著者:峯田 淳

新たな家族を待つ猫たち。スヤスヤ眠る子猫とは対照的に、心なしか不安げな表情を浮かべる子も…【写真:峯田淳】
新たな家族を待つ猫たち。スヤスヤ眠る子猫とは対照的に、心なしか不安げな表情を浮かべる子も…【写真:峯田淳】

 猫を家族の一員としてお迎えする方法として、保護猫の譲渡を選択する人が増えています。ひとつでも多くの命が最期まで幸せに暮らせるよう、理解と協力を求める呼びかけを目にしますが、譲渡会を通じて出会い、お迎えするまでには、どんなことがあるのでしょうか。コラムニスト峯田淳さんが、保護猫活動について連載する企画。今回は、初めて保護猫の譲渡会に参加した峯田さんが、会場の雰囲気に飲まれつつ観察した会場の様子を綴っています。

 ◇ ◇ ◇

初めて足を踏み入れた保護猫の譲渡会 まだ大人になっていない鳴き声が会場に…

 保護猫の譲渡会の会場は都心のオフィルビル大きな会議室の一室でした。会議用の長テーブルの上に、大小のケージが置かれ、猫たちが鳴いています。

 たくさんの子猫が目に入るなか、実際には年を取った猫もかなりいます。飼い主が亡くなったとか、飼うことができずに捨てられた成猫です。しかし、圧倒的に生まれたばかりの猫が多い。キーとかミーとか、まだ大人になっていない鳴き声が会場に響き渡っています。

 猫の種類もさまざまです。ブリーダーが育てて売っているような、ブランド猫はあまりいません。たとえば、スコティッシュフィールドとか、アメリカンショートヘア……。いることはいるのでしょうが、たくさんの猫に混ざっているからなのか、こちらがわからないのか、多いのは圧倒的にミックス、雑種です。

 がんで死んだ「ジュテ」は八割れの猫でした。ハチワレと表記していることもあります。頭から目まで黒く覆われ、鼻の部分が白い、左右対称模様です。ジュテの場合は体全体も白黒がシンメトリーで、足が同じように白いソックスの白足袋猫でした。奇跡的なデザインだったと思います。

シンメトリーなハチワレ、白足袋猫のジュテ【写真:峯田淳】
シンメトリーなハチワレ、白足袋猫のジュテ【写真:峯田淳】

“弟”猫の「ガトー」はキジ白といわれる猫。トラ猫の一種です。トラ猫は大きくキジトラ、サバトラ、茶トラに分かれます。茶トラはだいたい想像がつくと思います。キジトラは鳥のキジ(雌)が由来で茶色ベースに黒の縞模様、サバトラは銀色に輝く魚のサバに似ている模様です。キジ白はキジトラでも白が覆っている部分が多い猫。もっともサバ白とはいわないようで、サバトラはそもそも白がかなり入っている猫が多いのでしょう。

“末弟”の「クールボーイ」は白猫。顔の左、耳にかけて若干三毛、お腹に丸いサバトラっぽい色が入っていますが、体全体はほぼ真っ白です。

 会場に入って、譲渡会に呼んでくれたMさんを探しました。Mさんは会場の奥の隅にいました。猫を見ながら進んでいき、連れ合いのゆっちゃんと挨拶してにっこり、です。

「ね、やっぱりかわいいでしょ」とMさん。里親として引き取ってもらう気満々というのが伝わってきます。

「いやあ」

 会場の猫たちを見て、目移りするばかりで、言葉が出ないというのが正直な心境でした。

「ここのは熱海から連れてきた猫。ほかにもたくさんいるから見て回って」

保護されるのは子猫だけでなく成猫も【写真:峯田淳】
保護されるのは子猫だけでなく成猫も【写真:峯田淳】

 ぐったりぎみの成猫、本当に生まれたばかりでスヤスヤと眠っている猫、やんちゃが始まり、隣りの猫とつかみ合いをしている猫、小さな器のカリカリを食べている猫……。どの猫もかすかな輝きと淡いノスタルジー、未来を感じさせる様子に胸がキュッとしてしまいます。

 Mさんのところに戻って「どの猫(こ)もかわいいね」と言うと、「うれしそうじゃない」と笑われてしまいました。

「飼ってみたいと思う猫がいたら、言ってね」

 奥には熱海からやってきたNPO法人くすのき代表のNさんがいました。クールボーイはNさんからもらった猫です。

「こっちにもいるわよ」とMさんに言われたほうを見ると、ケージに3匹の猫が入っていました。2匹は黒猫です。その一匹がケージにしがみつき、こちらに何かを必死に訴えていました。

「ほらほら、出してあげるからね」

 Mさんがケージの扉を開けて取り出し、抱かせてくれました。肉球も黒く、小さい割に大きな爪で胸をかきむしってきます。

「ミー、ミー」

「わかった、わかった」

 このとき、連れ合いのゆっちゃんは“飼うならこの猫”と決めてしまったようです。ジュテが死んで、もう新しい猫は飼わないという思いは、一瞬のうちに吹き飛んでしまったのでした。

 果たして、この猫(こ)をもらったとして、先住猫のガトー、クールボーイと仲良く遊んでくれるだろうか。そんなことを心配していました。

(峯田 淳)

峯田 淳(みねた・あつし)

コラムニスト。1959年、山形県生まれ。埼玉大学教養学部卒。フリーランスを経て、1989年、夕刊紙「日刊ゲンダイ」入社。芸能と公営競技の担当を兼任。芸能文化編集部長を経て編集委員。2019年に退社しフリーに。著書に「日刊ゲンダイ」での連載をまとめた「おふくろメシ」(編著、TWJ刊、2017年)、全国の競輪場を回った「令和元年 競輪全43場 旅打ちグルメ放浪記」(徳間書店刊、2019年)などに加え、ウェブメディアで「ウチの猫がガンになりました」ほか愛猫に関するコラム記事を執筆、「日刊ゲンダイ」で「前田吟『男はつらいよ』を語る」を連載中。