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「風邪をひいたらネギを首に巻く」の言い伝えはなぜ生まれた? ネギの栄養効果とは

公開日:  /  更新日:

著者:鶴丸 和子

教えてくれた人:和漢 歩実

昔から日本人に親しまれてきたネギ(写真はイメージ)【写真:写真AC】
昔から日本人に親しまれてきたネギ(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 昔ながらの暮らしの知恵として「風邪をひいたらネギを首に巻く」といった方法が伝えられています。子どもの頃に風邪をひいて、巻いた経験がある人もいるかもしれません。単なる迷信なのか、実際のところどうなのでしょうか? 日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに伺った、ネギの豆知識や栄養の話とともに探っていきましょう。

 ◇ ◇ ◇

ネギは古くから薬効が注目されてきた野菜

 のどが痛い、鼻が詰まるなど風邪の症状を感じたら、「切ったネギ、または焼いたネギをガーゼや手ぬぐいに包んで首に巻く」との言い伝えを聞いたことがある人もいるでしょう。いわゆる昔から伝わる“おばあちゃんの知恵袋”。科学的な根拠は明確ではありませんが、なぜそういわれたのでしょうか。

――そもそもネギは、日本にいつ頃から伝わる野菜なのでしょうか?

「ネギの原産地には諸説ありますが、日本には8世紀にはすでに存在していたようです。720年にまとめられた『日本書記』に『秋葱(あきき)』とあり、ネギのことが記されています」

――ネギは、日本人に古くから親しまれてきた野菜なのですね。

「どのように日本に伝わったかは定かではありませんが、栄養素や成分分析ができなかった時代にも、独特のツーンとした刺激臭や辛味を持つネギを重宝していたのは確かです。古くから伝わる中医学をもとにした漢方では、ネギを生薬名『葱白(そうはく)』として扱っています。中医学をもとにした食養生の薬膳でも、ネギは体を温めて気や血のめぐりを良くし、汗をかかせて邪気を追い出し寒さを散らす食材とされてきました」

――薬味といった言葉もありますよね。

「はい。薬味とは、料理に添える香味野菜や柑橘類、香辛料などを指す言葉。『加薬(かやく)』と呼ぶこともありますね。役割は2つあって、ひとつは食の味を引き立てること。もうひとつは食から健康を維持する薬のような役割です。古くから薬効成分が注目されているネギは、一般の家庭でも後者の薬味の役割を期待され、発熱ではなく、風邪の初期症状の悪寒が現れた場合に用いられるようになったのではと考えられます」

――ネギの独特のツーンとした刺激臭や辛味は、どのような成分なのでしょうか?

「独特の刺激臭と辛味は、アリシンです。硫化アリルの一種で、疲労回復や血行促進、殺菌などが期待されます。また、ビタミンCをはじめ、食物繊維やカリウム、カルシウムなども含まれる食材です。アリシンやビタミンCは熱に弱いので、生のほうが有効。現代の栄養学でみても、ネギは、風邪や免疫機能の維持が気になる際に摂取したい栄養成分が含まれている野菜です」

ネギは首に巻くより、食べるほうがいい

――そのようなネギの栄養効果を、昔の人は体感で知っていたから「風邪をひいたら首に巻く」といったことにつながったといえそうですね。

「そうですね。根拠は定かではありませんが、ネギを首に巻くと伝えられるようになったのは、症状が現れやすいのどや鼻に近い部分だからとも考えられます。呼吸や肌からの吸収で、ネギの成分を取り入れる意味合いがあったのかもしれません。しかし、栄養成分がわかる現代では、本来のネギの栄養をいかすならば、首に巻くよりも丸ごと食べるほうが効果的といえます」

――丸ごとというのは、白い部分も青い(緑色の)部分も食べたほうが良いということですか?

「はい。長ネギは、一般的に白い部分と青い部分に分けられます。青い部分には、βカロテン、カルシウム、ビタミンKが多く含まれているんです。とくにβカロテンは豊富で、ネギの青い部分が『緑黄色野菜』に分類されるほど。βカロテンは、必要時に体内でビタミンAに変わり、皮膚や粘膜の健康、免疫機能のアップにつながります。風邪が気になる今の時期こそ、積極的に摂取したい栄養素のひとつです。脂溶性であるため、適量の油と調理して食べると吸収率が高まります」

――そのほかの特徴はありますか?

「ネギの青い部分にあるネバネバは、水溶性食物繊維(フルクタン)です。フルクタンは血糖値やコレステロールの調整をサポートし、腸内を整える作用が期待できます。栄養たっぷりなので、青い部分も含めてネギは、薬味として料理に添えたり、炒めたり、煮たり加熱しても甘みが出ておいしいです」

 古くからその薬効が注目され、活用されてきたネギだからこそ、「風邪をひいたらネギを首に巻く」との言い伝えが知恵として生まれたのでしょう。旬の野菜は栄養やおいしさがアップするといわれています。寒い季節が旬のネギを食卓に取り入れて、健やかな体づくりにいかしましょう。

(鶴丸 和子)

鶴丸 和子(つるまる・かずこ)

和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
インスタグラム:tsurumarukazu