Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

ライフスタイル

初夢はいつ見る夢? 悪夢を見たときの対処法も いまさら聞けない日本の風習

公開日:  /  更新日:

著者:鶴丸 和子

初夢はいつ見る夢?(写真はイメージ)【写真:写真AC】
初夢はいつ見る夢?(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 初夢の内容でその年の吉凶を判断する風習は、古くからあります。縁起が良い吉夢に「一富士、二鷹、三茄子(いちふじ、にたか、さんなすび)」や「宝船に乗った七福神」などがありますが、もし寝覚めの悪い初夢を見てしまった場合、昔の人はどのように対策したのでしょうか。日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。今回は初夢の言い伝えを紹介します。

 ◇ ◇ ◇

一年の吉凶を判断する初夢とは いつ見る夢?

 新しい年の吉凶を判断するために、昔の人は初夢の内容を大事にしてきました。いつ見る夢を初夢とするかには諸説あり、そのときの暦や風習によって変わっています。

 古くは立春を正月としていたため、「節分の夜から立春の朝に見る夢」を初夢と呼びました。やがて改暦されると「大晦日の夜から元旦にかけての夢」を指すようになります。大晦日は「寝ずに神様を迎える」習慣が広まると、初夢は「元日の夜から2日にかけての夢」に変化。さらには、新年に物事を始める「事始め」が1月2日であるとの考えから、「2日の夜から3日にかけて見る夢」になりました。

 現代では「2日の夜から3日にかけて見る夢」を初夢とするのが一般的ですが、ライフスタイルも多様化しているので、日付をとくに決めず「その年の最初に見た夢」とする考えもあります。

吉夢を見るためにやったこと 悪夢を見た際の言い伝えとは

 初夢で見ると縁起が良いと伝えられているもので、代表的なのが「一富士、二鷹、三茄子」。これら3つは、天下統一を果たした徳川家康の領地、駿河国(現在の静岡)の名産にあやかったものといわれています。末広がりで美しい富士山、空高く自由に舞うタカ、無駄花がなく実がたくさんなるナス。「無事(不死)、高い可能性、事を成す」といった意味が込められているそうです。

 このほか、「宝船に乗った七福神」の夢も吉兆とされてきました。七福神とは、一般的に「夷(えびす)、大黒(だいこく)、毘沙門天(びしゃもんてん)、弁財天(べんざいてん)、福禄寿(ふくろくじゅ)、寿老人(じゅろうじん)、布袋(ほてい)」のこと。幸福をもたらすことで知られている神様です。

 江戸時代には、初夢で吉夢を見るために、宝船に乗った七福神が描かれた紙を枕の下に敷いて眠ったといわれています。また、寝る前に「おまじない」を唱える風習もありました。上から読んでも下から読んでも同じ回文「なかきよの とおのねふりの みなめざめ なみのりふねの おとのよきかな(長き世の遠の眠りのみな目ざめ、波乗り船の音の良きかな)」と言ってから寝ると、良い夢を見られると信じられていたようです。

 初夢が悪夢だった場合の対策もあります。ひとつは、人の夢を食べるという架空の動物「獏(ばく)」に託すというものです。怖い夢を見たら「昨晩の夢は獏にあげます」と3回唱えると、消え去るとの言い伝えがあります。もうひとつは「夢は逆夢」と笑い飛ばして、悪夢を縁起直しする対策。こちらは今も広く知られています。

 または、七福神が描かれた紙があれば宝船の帆に「獏」の文字を書いて、川に流したり、土に埋めたりしたそうです。神社やお寺に「夢納め」をする風習や、悪夢を吉夢に変える「夢買い屋」という商売もあったとか。

 初夢の内容と一年の吉凶の関係に科学的な根拠はありませんが、せっかくなら吉夢を見たいところです。縁起が良い富士山やタカ、ナス、宝船に乗った七福神が初夢に出てくるかは運しだいといえそうですが、良い目覚めで新たな年のスタートを切りたいですね。

(鶴丸 和子)

鶴丸 和子(つるまる・かずこ)

和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
インスタグラム:tsurumarukazu