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仕事・人生

掃除機や水拭きができるスケートリンク 環境にも優しいサステナブルな理由とは 仕掛け人に聞いた

公開日:  /  更新日:

著者:日下 千帆

樹脂のスケートリンク仕掛け人の土橋珠美さん(左)と日下千帆さん【写真:日下千帆】
樹脂のスケートリンク仕掛け人の土橋珠美さん(左)と日下千帆さん【写真:日下千帆】

 冬の人気スポーツといえば、スキー、スノーボードにアイススケート。最近レジャー施設で見かけるスケートリンクが、よく見ると氷ではなかった……という経験はありませんか? 氷ではないとすると、いったいどんな素材なのでしょう。今回は、氷を使わないスケートリンクの仕掛け人、株式会社ジェイプランニングインターナショナル代表取締役の土橋珠美さんにお話を伺いました。

 ◇ ◇ ◇

樹脂のスケートリンク 環境に優しくメンテナンスも手軽

 氷を張るのが当たり前と思われていたスケートリンクに使われている素材は、実は樹脂。都内では、GINZA SIXの屋上にある「Rooftop Star Skating Rink」(1月21日まで)や、東急プラザ渋谷17階にあるレストラン「BAO by CE LA VI」に併設されている「CE LA VI SKY SKATE RINK」も樹脂で作られたリンクです。

 この仕掛け人である土橋さんご自身は小学2年生からスケートを習い始め、1973年と1975年の2度にわたり、全日本フィギュアスケート選手権大会でアイスダンス2位という輝かしい成績を残しています。現在は、一般社団法人スケートアスリートプロデュース協会代表理事も務め、昨年8月にはスケートのメソッドを取り入れて子どもたちの能力開発を行う教室「ステラ デイ バンビーニ」を開設しました。

土橋さんが手がける樹脂のスケートリンク
土橋さんが手がける樹脂のスケートリンク

――なぜ最近、レジャー施設で見かけるスケートリンクは樹脂でできたものが多いのでしょうか?

「樹脂を使ったリンクは、氷のリンクに比べてコストを1/4に抑えられるためです。しかも、1~2日で設置が可能。水を凍らせるのに最低でも2~3日はかかりますし、その後も電気料金がかかり続けます。これらの点から、樹脂のリンクの需要が増えているのです。実際、ヨーロッパでは、このところの急激な電気料金の値上げにより、スケートリンクを使用できる期間が大幅に短くなってしまい、それに代わる樹脂のリンクが多くの国で評価され、採用され始めました」

――滑った感じはいかがですか?

「この冬、千葉の樹脂リンクでプロのスケーターによるアイスショーを開催したのですが、出演者のみなさんが『樹脂でもこんなに滑れるんだ』と驚いていました。もちろん、ショーをご覧になったお客様にもご満足いただけたと思います。

 昔の樹脂リンクは、よく歯の先がつっかかってしまって、進みにくい印象がありました。しかし、樹脂のクオリティが年々向上し、かなり滑りやすくなっていると思います。弊社の樹脂リンクには潤滑剤が練り込まれていて、滑るほどに滑らかになっていく特性があるのです」

――日本では、いつ頃から樹脂のリンクが作られていたのでしょうか?

「樹脂リンク自体は、20年ほど前からありました。弊社が取り組み始めたのは2013年、二子玉川の駅前に設置したレジャーリンクからです。そのときに企画・運営も担当したのですが、当時は氷を使わないリンクは話題になりました」

――それから樹脂のリンクのプロデュースを続けたのですね。

「確か、2015年のことだったと思います。インターネットで樹脂リンクを検索し、スイスのGlice(グライス)社という会社を見つけて連絡したところ、CEOが日本まで飛んできて、『あなたにやってほしい』とオファーを受けました。

 その後、2017年12月に千葉県にある東京ドイツ村に『ヒルトップリンク』をオープン。現在、日本で樹脂リンクを使っているのは、東京、千葉、徳島、山口など10か所ほどです。山口県周南市では、廃校になった校舎の体育館を利用して、アイスホッケー連盟が選手育成用に樹脂リンクを作りました。メンテナンスは、掃除機や水拭きなどでできて手軽。使い勝手の良さから、小中学校の授業にスケートを取り入れていくことも可能になると考えています」

東急プラザ渋谷最上階のダイニングバーに併設されている樹脂のリンク
東急プラザ渋谷最上階のダイニングバーに併設されている樹脂のリンク

――アマチュア選手だけでなく、プロも使用しているのですか?

「米国のNHLアイスホッケーリーグに出場している選手も、練習に使っています。アイスホッケーとの相性は非常に良く、自宅での練習用に個人で所有する人もいます。

 ただ、フィギュアスケートの場合、ジャンプとスピンの練習は難しい。ジャンプは、着地する際に歯のつま先部分を着氷してからバックで滑るのですが、これを樹脂リンクで行うのは難易度が高いです。スピンも、少しでも軸がぶれると立て直しが難しくなります。氷が解けてくれるから微調整できるものですから。

 一方、それ以外の動きには問題がないので、初心者の練習には十分です。むしろ、正しくエッジに乗ることで、正確な動きが身につきやすいという利点もあり、氷に乗ったときに流れるような動きができるようになります」

 技術の進化とともに、スポーツやレジャーの形も変わってきました。全国の子どもたちが冬のスポーツのひとつであるスケートを気軽に体験できるようになり、若手スケーターの裾野が広がれば、将来の五輪で日本人選手のさらなる活躍につながるかもしれませんね。

(日下 千帆)

日下 千帆(くさか・ちほ)

1968年、東京都生まれ。成蹊大学法学部政治学科を卒業後、テレビ朝日入社。編成局アナウンス部に配属され、報道、情報、スポーツ、バラエティとすべてのジャンルの番組を担当。1997年の退社後は、フリーアナウンサーとして、番組のキャスター、イベント司会、ナレーターのほか、企業研修講師として活躍中。