Hint-Pot | ヒントポット ―くらしがきらめく ヒントのギフト―

ライフスタイル

ベテラン“助っ人”外国人選手に逆に教えられることも? 球団通訳だけが知っている意外な一面

公開日:  /  更新日:

著者:芳賀 宏

日本の主な公共交通機関で使用できる交通系ICカード(写真はイメージ)【写真:写真AC】
日本の主な公共交通機関で使用できる交通系ICカード(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 外国語から日本語、日本語から外国語へ通訳して、話を伝えるだけではない球団通訳の仕事。諸外国から日本のプロ野球界にやってきた“助っ人”外国人選手にとって、母国と異なる文化のなかで力を発揮するのは、並大抵のことではありません。彼らを言語だけでなく、生活面でも支えているのが球団通訳です。埼玉西武ライオンズで通訳として“助っ人”外国人選手たちをサポートしてきた、町田義憲さんと小林俊太郎さん。球団通訳だからこそ知っている、想像もつかないような外国人選手の行動やおもしろいエピソードについて伺いました。

 ◇ ◇ ◇

来日した外国人選手に最初に手渡す意外なもの

 西武の“助っ人”外国人選手の多くが、電車通勤しているといいます。町田さんは、「新しく入団した選手には、まず交通系ICカードを渡して使い方を教えるのが最初の仕事ですね。けっこう使いこなしているんですよ」と話します。2年目以降は車通勤になる選手もいますが、時間が正確な日本の電車を2年目以降も利用する選手は少なくないそうです。

 いつもは選手の家族も含めてサポートする側ですが、逆に助っ人選手たちに「面倒を見てもらいました」と感謝を口にするのは小林さんです。山口県出身で、高校卒業と同時に米国の大学に留学。帰国した2017年から球団通訳の仕事に就きましたが「即戦力じゃないといけないんですが、わからないことだらけだった」そうです。

 当時、在籍していたブライアン・ウルフ選手は他球団にもいた来日8年目、エルネスト・メヒア選手も4年目という“ベテラン”。小林さんは「在来線から新幹線の乗り換えとか、羽田空港への行き方とか、本来は通訳である自分が調べるべきなのに、ふたりはお手のもの。逆に連れていってもらうような状態でした」と振り返ります。こうした適応能力の高さも、日本で活躍する要因のひとつなのかもしれません。

日本語を積極的に学ぼうとする姿勢

 小林さんの経験は珍しい例ですが、実際、来日する家族含め、外国人選手の多くは生活習慣への戸惑いに直面することが多いようです。

 なかには選手の配偶者から「ジムに行きたいけど、入会の仕方がわからない」「受付でなんと言っているかわからないので、電話を代わって」と連絡が来ることも。「ディズニーランドに行きたいのでチケットを手配してほしい」といったリクエストも少なくありません。

 また、「米国では家の中にトイレが2つあるのはよくあるけど、日本ではなかなかありません。なぜないのか、素朴な疑問をぶつけられることもありますね」(小林さん)と思わぬ指摘を受けることもあるそうです。

 当然ながら、言葉の問題も。世界的に見て、漢字、ひらがな、カタカナを使い分ける日本語は習得が難しいとよくいわれます。食事などの生活面だけでなく、言語に関しても習得に積極的な選手と、そうでない選手に分かれるそうです。

 町田さんによると、ウルフ選手は「投手なのでシーズン前に、バントや牽制のサイン確認などのミーティングがあります。それが終わると、すぐに僕のところに来て『こういうことだよね? 俺が理解していないサインある?』と聞いてくるんですけど、ミーティングの内容をほとんど理解していました。日本語のヒアリングに関しては完璧でしたが、しゃべることは全然なかったかな」と明かします。

 2015年に1年間だけ在籍したアンソニー・セラテリ選手は、母方の祖母が日本人とはいえ米国育ちなので、当然ながら日本語を話せません。しかし、「暇なときはホワイトボードを使って日本語の勉強をしていて、シーズン終盤の9月頃には、ひらがなとカタカナで五十音を書けるようになっていました」というから驚きです。

球団通訳という仕事は言葉を翻訳するだけじゃない

 食事から家族の世話までするのは、一般的な通訳の職務とは違うのかもしれません。それでも町田、小林両通訳は「それも含めて業務だと思っています。ストレスだと感じたことはありません」と言い切ります。

 小林さんは「僕はネイティブの完璧な英語を話せるわけではないからこそ、言葉以外のことでしっかりサポートすることが大事。僕らが対応することがないときは、選手がうまくいっているのだと思います」と受け止めているそうです。

 通訳として10年目のシーズンを迎える町田さんも、「2014年にホームラン王になったエルネスト・メヒア選手や、最近も2019年の優勝に貢献したザック・ニール選手など活躍してくれると僕も喜ばしいというか、サポートした甲斐があったなと感じます」と話します。

 驚くような活躍をする選手、おもしろいキャラクターで人気になる選手。“助っ人”選手にはいろいろいます。そして、その陰には球団通訳として言葉を伝える以上の仕事で、選手を支える人たちもいるのです。

(芳賀 宏)