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どうぶつ

脱走した元保護猫を近所で発見 「いたの! よかった」と安堵も無情な反応…続いた捕獲作戦

公開日:  /  更新日:

著者:峯田 淳

ジュテ、クールボーイ、ガトー(左から)【写真:峯田淳】
ジュテ、クールボーイ、ガトー(左から)【写真:峯田淳】

 猫を家族の一員としてお迎えする方法として、保護猫の譲渡を選択する人が増えています。さまざまな誓約を交わし家族の“ひとり”となった子が、安全に幸せに暮らせるようにするには、どんなことに気をつける必要があるのでしょうか。コラムニスト・峯田淳さんが、保護猫活動について連載する企画。今回は、脱走した元保護猫の愛猫を探すために奔走した様子を綴っています。

 ◇ ◇ ◇

「捕獲器があるから、いそうなところに仕掛けてみて」

 今から思えば、猫が脱走した場合、どうやったら捕まえることができるかということを、何も考えていませんでした。ただただ、いつまでも猫たちと楽しく暮らせる……そう安易に思っていたのでしょう。

「ペット探偵は見た!」の著者、藤原博史さんの本によれば、猫のテリトリーは去勢していないオス猫の場合、約500メートル~1キロ、1日の移動距離は約50~100メートル、去勢済みの場合、テリトリーは250~500メートル、移動距離は一日25~100メートルだそうです。

 しかし、まだそんな基礎知識もなく、何も手立てがないのでとにかく家の周囲、数百メートルを何の当てもなく、脱走してしまったクールボーイを探し回りました。

 朝に2、3回、仕事に出かける前、午後にも。夜に帰宅して2、3回、夜中も目が覚めたら、自転車だったり、歩いたりして探し回りました。ゆっちゃんは買い物に出かけた時に道すがら見て回りました。

 とくに家と家の隙間、駐車場の車の下とか、猫が潜んでいそうな場所です。ときどき野良猫がうずくまっていたり、飛び出して来て逃げたり、その度にクー(編集部注:クールボーイの愛称。以下、同)もいるんじゃないかと思って、呼んでみたりしました。

 クーをお世話してくれたMさんに連絡しました。いつもは穏やかなのに、このときばかりは「ダメでしょ」と怒っています。ただ、適切なアドバイスもしてくれました。

「捕獲器があるから、いそうなところにそれを仕掛けてみて」

「捕獲器?」

「ネズミ捕りを大きくしたような金属製の大きな檻があるの。ネットとかでも注文できる」

「どこに仕掛けるの」

「クーちゃんがいそうなところとか、お腹がすいて戻って来るかもしれないから家の外とか。とにかくあまり遠くまで行っていない、ここ2、3日が勝負よ!」

 そこですぐに通販サイトで注文すると言ったら、Mさんは「それだと、届くまでに時間がかかるかもしれない。うちにあるのを送るから、それを使って!」。Mさんも慌てています。

 翌日夕方までにMさんから捕獲器が届きました。小動物用捕獲器。Lサイズの縦79センチ、横30センチ、高さ33センチ。結構大きなものです。それを組み立て、Mさんに言われた通り、家の勝手口近くに仕掛けました。

クーはこちらを“誰?”という目で…

ジュテ(右)に甘えるクールボーイ【写真:峯田淳】
ジュテ(右)に甘えるクールボーイ【写真:峯田淳】

 藤原さんによれば、脱走した猫を捕まえる場合、飼い主の依頼を受け、猫の写真を載せたチラシなどを作って置いてもらい、周辺に貼り紙もするそうです。ただ、時間がたてばたつほど猫は遠く離れる可能性があるし、ますますどの方向かわからなくなり、途方にくれてしまうに違いありません。一刻も早く動く。これに優る方法なしです。

 2日目から捕獲器を仕掛け、玄関を半開きにして寝ずの番をし、クーが帰って来た音、捕獲器にかかった音がしないかうかがいながら、寝たり起きたり。もう無我夢中です。

 クーが見つかったのは3日目の夜中。その日も見回りを続けていました。自宅から4軒目に一人暮らしの高齢の人が住んでいる家がありましたが、病気で施設に入ってしまい、空き家になっていました。庭は草が生えてボウボウ状態。いかにも野良猫が居つきそうな雰囲気がありました。

 そこを通ったら、空き家の隣の家の外階段の中段くらいで、白いものがこちらを見ていました。目を凝らすとクーです。真っ白でお腹のあたりの黒い円……間違いありません。

 でも、悲しかった。クーはこちらを“誰?”という目で見ています。あんなに愛おしく育てているのに、クーはたまたまごはんを食べさせてくれる人くらいにしか、思っていないのかもしれない。それはないよ……。

「クー!」

「?」

「おいで」

「?」

 そして、空き家の方に姿を消し、見えなくなってしまったのです。

 すぐに家に戻り、ゆっちゃんに言うと、「いたの! よかった」と安堵の表情です。そしてすぐ次の行動に移します。

 空き家から、家の捕獲器を仕掛けている勝手口まで、大好きなエサのカリカリを一粒ずつ、間をおいて撒きました。お腹がすいているのは間違いない。カリカリを次、次……と食べて家まで辿り着き、ガシャン! ……そう思いながら、小雨の降るなかでカリカリを撒く作業を地道にやっていました。

(峯田 淳)

峯田 淳(みねた・あつし)

コラムニスト。1959年、山形県生まれ。埼玉大学教養学部卒。フリーランスを経て、1989年、夕刊紙「日刊ゲンダイ」入社。芸能と公営競技の担当を兼任。芸能文化編集部長を経て編集委員。2019年に退社しフリーに。著書に「日刊ゲンダイ」での連載をまとめた「おふくろメシ」(編著、TWJ刊、2017年)、全国の競輪場を回った「令和元年 競輪全43場 旅打ちグルメ放浪記」(徳間書店刊、2019年)などに加え、ウェブメディアで「ウチの猫がガンになりました」ほか愛猫に関するコラム記事を執筆、「日刊ゲンダイ」で「前田吟『男はつらいよ』を語る」を連載中。