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きっかけは産後の心の不調 淡路島で人気の餃子無人販売所 専業主婦の店主が語る移住したワケ

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部・出口 夏奈子

名物餃子を販売する「島ぎょうざ はるちゃん」の無人の自動販売所の前で餃子を手にする森田悠香さん【写真:森田悠香】
名物餃子を販売する「島ぎょうざ はるちゃん」の無人の自動販売所の前で餃子を手にする森田悠香さん【写真:森田悠香】

 大阪生まれ、大阪育ち。ノリの良い大阪弁を話しながら、明るく人懐っこい笑顔を見せる森田悠香さんは、3年前に3人の子どもと夫と一緒に兵庫県の淡路島へ移住しました。地元で獲れたジビエ肉と野菜を使った餃子の無人販売所「島ぎょうざ はるちゃん」を立ち上げると、瞬く間に人気スポットに。いまでは観光客だけでなく、地元の人たちの憩いの場所にもなっています。さまざまな分野で活躍する女性たちにスポットを当て、その人生を紐解く連載「私のビハインドストーリー」。前編では、淡路島へ移住した理由について伺いました。

 ◇ ◇ ◇

自分が望んだ専業主婦 大人の会話ができなくなっていた自分にショック

「確か、小学生ぐらいの頃に神戸と淡路島を結ぶ明石海峡大橋っていう大きな橋が開通したんですよ。そのときに家族で見に来たことがあったと思うんですけど、それ以降、ほとんど来たことはなくて。ただ、私も夫も海がとっても好きで、二人で大阪に近いきれいな海をめぐっていたなかで、最終的に行き着いたのが淡路島の海でした。そこからどっぷりと淡路島にハマってしまったんです」

 もともと大阪で美容師として働いていた森田さん。美容鍼灸に興味を持ち、資格を取得するために学校に通っていました。その頃に出会った現在の夫と28歳のときに結婚。家庭に入り、専業主婦になりました。

 子どもが産まれると保育園に預けることなく、自分の手元で育てていました。1日中、子どものそばでともに過ごし、愛する家族のために家事をすること。それは森田さん自身が望んでいた暮らしで、とても幸せだったといいます。

 しかし、友たちや大人と話をするときに、大人の会話が全くできなくなっていた自分に「ショックを受けた」と振り返ります。

「私、社会から孤立しているかもって思ったんです。でも、私はこの子のお母さんだし、夫の奥さんであることは間違いない。それに自分が今の形を望んでいたわけで、とても幸せだったんです。だったんですけど……なんかちょっとさみしいなっていう感情を、ずっと抱えながら8年間過ごしていました」

 当時は、そんな自分自身の感情を「わかっていなかった」そうで、「どんどん自分の内にこもってしまって、なんかすごく沈んだ気持ちになることが多かった」といいます。そして、「幸せなはずなのに、なんか悲しい」と孤独を感じていたと打ち明けます。

 気分が沈んだときには決まって「海が見たい」と思っていたという森田さん。浮かぶのはいつも、淡路島の海でした。そこで、週末が来るたびに淡路島を訪れるようになり、「いつか移住できたらいいね」と夫と話をしていたといいます。

夫の存在がマインドをチェンジ 何事にもチャレンジする精神

第3子出産前の家族写真。夫婦が大好きな海をバッグに【写真:森田悠香】
第3子出産前の家族写真。夫婦が大好きな海をバッグに【写真:森田悠香】

 淡路島は瀬戸内海に浮かぶ、瀬戸内海で最大面積を誇る大きな島です。淡路島全体が観光地になっており、あちらこちらに観光スポットが点在。訪れる観光客向けに食事処やレジャー施設もあり、離島特有の田舎感や自然に癒されながらも、生活に必要なものは何不自由なく揃っていて「子育てしやすくて住みやすい」といいます。

「空も広いし、ごはんもおいしい。きれいな海もあるし、温泉もあって、淡路島には私を浄化してくれるすべてが揃っているような感覚がありました」

「ビビビと来た(笑)」と語る淡路島を毎週訪れるうちに、少しずつ心が回復していったという森田さん。第3子も誕生し、気持ちが前向きになっている頃、「いい物件が空いたから見に来ない?」と不動産屋から連絡が。そして翌月には、移住していたそうです。

「『行きたい』とか、『やりたい』って思ったら条件反射で反応してしまう夫婦なので、移住への不安よりは楽しみのほうが大きかったです。だから『まあなんとかなるやろう』みたいな感じで、飛び込んできちゃいました」

 移住は、人生そのものを変える大きな決断のひとつです。それを即決できたのは、夫の存在が大きいと森田さんはいいます。

「どちらかというと、私は慎重派というか、子どももいるし……とか、自分でいろいろとやらない言い訳を並べてやらずにいるタイプの人間でした。でも、主人は全く違うんです。やろうと思ったら、突き進むタイプ。夫から、『やってみることで、もしかしたら自分が成長できるチャンスだったかもしれないのに、なんで自分の可能性を自分で止めてしまうの?』と言われて。それでハッと気づいたんです。それからは何か決断することが起こったら、自分の成長にとって必要なことなんだと思うようにして何事にもチャレンジするようにしています」

 とはいえ、実際にそうできるようになったのは30代に入ってから。専業主婦として家族と過ごす満たされた時間に幸せを感じつつも、「このままで、私は人生を終えていくのか? それは嫌だ」という自分の中に少しずつ芽生えていった葛藤。

 そこで自らアクションを起こしたのが、「島ぎょうざ はるちゃん」でした。

「必要なのは踏み出す勇気だけなんです。あとは続ける根性でしょうか(笑)」

 それだけあれば、「あとはうまいこといく」。森田さんはしっかりと前を向いています。

◇森田悠香(もりた・はるか)
大阪府出身。大阪で美容師として勤務しながら美容鍼灸師を目指し、進学。28歳で結婚し、3人の子どもに恵まれる。海好きが高じて、夫とともに関西の海を巡るうちに淡路島の海に魅了。第2子出産後に心のバランスを崩したことで、週末を淡路島で過ごすようになる。その後、淡路島へ移住。淡路島がニホンジカやイノシシなどの害獣被害が多いことを知り、狩猟免許を取得。自身が仕掛けたワナにはまだかかったことはないが、夫や夫の友人たちと一緒に立ち上げた「島ぎょうざ はるちゃん」ではジビエ肉を使ったおいしい餃子を提供している。淡路島を訪れる観光客のお腹を満たすだけでなく、地元の人たちの憩いの場にもなっている。

(Hint-Pot編集部・出口 夏奈子)