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大根を「怒ってすりおろすと辛くなる」といわれるのはなぜ? 辛味の正体とは

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部

教えてくれた人:和漢 歩実

大根は怒ってすりおろすと辛くなる?(写真はイメージ)【写真:写真AC】
大根は怒ってすりおろすと辛くなる?(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 春の七草のひとつ「すずしろ」でもある大根。古くからなじみのある野菜で、日本人の食を支えてきました。昔から「怒って大根をすりおろすと辛くなる」といわれていますが、実際のところはどうなのでしょうか? 栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに大根の辛味や栄養、おろし方などについて伺いました。

 ◇ ◇ ◇

大根の辛味成分は、酵素と混じって発生

 大根の辛味は、「イソチオシアネート」という成分によるものです。大根をすりおろしたり、切ったりして組織が破壊されると、大根に含まれる酵素が混じって、辛味成分のイソチオシアネートが生成されます。

 イソチオシアネートは、普段の大根の状態では発生しませんが、細胞を細かく破壊すればするほど多く生成されるといわれています。殺菌作用に期待され、細く切った大根を刺身のツマとして使っているのもそのためです。近年は、肝臓の解毒作用を助けたり、がんの発生を抑えたりすることで注目されています。

 大根は、切ったりおろしたりする人の感情で辛くなったり甘くなったりはしません。しかし、怒りに任せてすりおろす際に力が入ることで、大根の細胞が細かく破壊されると考えれば、いつもよりイソチオシアネートの発生が増え、辛い仕上がりになるといえるかもしれません。

大根おろしの辛味を抑えるには 部位や繊維の向きにも着目

 イソチオシアネートは空気に触れることで揮発するので、大根おろしを甘めに仕上げたい時は、ゆっくりと丸くすりおろすほうが良いといわれています。また、すりおろした後に時間をおいて空気に触れさせておくと、辛味を抑えられるでしょう。

 大根は部位によって辛味に違いがあるので、おろす際に使い分けをすると良いでしょう。葉のそばの上部は、水分が多く辛みよりも甘みが強い部位で、大根おろしに使うとマイルドな味わいに。先端の下部は、水分が少ないので辛みが強く、煮物にするとおいしい部位です。辛い大根おろしを作りたい場合は下部を使うと良いですが、苦手な場合は上部をおろしに使うと良いでしょう。

 すりおろす際の大根の繊維の向きによっても辛味を抑えることができます。大根の繊維は上から下に通っているので、横ではなく縦に切った切断面をおろし金に当て、繊維に対して平行におろしたり、円を描くように丸くおろしたりすることで辛味成分のイソチオシアネートが生成されにくくなります。

大根の栄養メリットをいただくなら生食で

 大根は95%が水分ですが、残りの5%に含まれる成分には大きな栄養メリットが期待されています。辛味成分イソチオシアネートのほか、代表的なのは、消化を助ける働きが期待される酵素が豊富であることです。でんぷん分解酵素の「アミラーゼ」は有名ですが、たんぱく質分解酵素の「プロテアーゼ」や脂肪分解酵素の「リパーゼ」も含まれています。

 これらの酵素は熱に弱い成分なので、大根おろしや大根サラダなど生で食べるほうがメリットをいただけるでしょう。たとえば、たんぱく質や脂質を多く含むハンバーグや焼肉、から揚げなどに、大根おろしを添えて一緒に食べると消化を助けてくれます。

(Hint-Pot編集部)

和漢 歩実(わかん・ゆみ)

栄養士、家庭科教諭、栄養薬膳士。公立高校の教諭として27年間、教壇に立つ。現在はフリーの立場で講師として食品学などを教える。現代栄養と古来の薬膳の知恵を取り入れた健やかな食生活を提唱。食を通して笑顔になる人を増やす活動に力を注いでいる。
ブログ:和漢歩実のおいしい栄養塾