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出先でボタンが取れた…服を着たままつけるのはNG? 針や裁縫にまつわる言い伝え

公開日:  /  更新日:

著者:鶴丸 和子

着ていた服のボタンが取れたら…着たままつける? 脱いでからつける?(写真はイメージ)【写真:写真AC】
着ていた服のボタンが取れたら…着たままつける? 脱いでからつける?(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 着ている服のボタンが取れかかっていたり、裾にほころびがあったりしたとき、どうしていますか? いったん服を脱いで縫いますか? それとも服を着たまま縫いますか? 繕う服を着たままの状態でボタンつけや縫いつけを行うと「縁起が悪い」といわれていますが、それはなぜでしょうか? 日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。今回は、針や裁縫にまつわる言い伝えを紹介します。

 ◇ ◇ ◇

裁縫で使う針は大切な存在

 針供養とは、「事八日(ことようか)」と呼ばれる日に、お世話になった道具に感謝するという風習です。地域によって異なりますが、2月8日か12月8日のどちらか、または両日に行われます。古くなったり折れたりした針を、やわらかい豆腐やこんにゃくに刺したり、神社に納めたりして供養し、裁縫の上達を願う行事です。現代では、裁縫をする機会は少なくなっているかもしれませんが、昔から針は大切な存在だったといえるでしょう。

 針や裁縫にまつわる言い伝えに、「着ている服に裁縫をしてはいけない」ということがあります。「着針」とも呼ばれ、着ている衣類のほころびを、着たままの状態で針を刺して繕うことは縁起が悪いとされてきました。理由としては、着たままの服に針を刺すのは亡くなった人だけといった説がありますが、有力なのは着衣のまま針を使うとけがをすることがあるので、その戒めから生まれたとする説です。

「ぬいだ、ぬいだ、ぬいだ」と唱えて“回避”

 しかし状況によっては、どうしても繕う服を着たまま針で縫わざるを得ないこともあるでしょう。たとえば、出先で着ている服のボタンが取れてしまったり、ポケットなどが破けてしまったりしたときなどです。

 そんなときは、縁起が悪いことを“回避”する方法として、「ぬいだ」と3回唱えて「服を脱いだ」ことにするという言い伝えもあります。これは「ぬいだ、ぬいだ、ぬいだ」と言ってひと息つくことで、縫う側も縫われる側も針を使うことに注意を向ける狙いもあるようです。

出かける直前の裁縫もタブー? そのほかの言い伝え

 また「出かけに裁縫をしてはやってはいけない」という言い伝えもあります。「出針」とも呼ばれ、出かける直前にボタンをつけ直したり、衣服を繕ったりするのは縁起が悪いというものです。

 由来には諸説ありますが、いずれも戒めとしての意味合いが強いといえます。ひとつは、出かける前の慌ただしいときに、針仕事をするのはけがのもとになることから言い伝えられたという説。もうひとつは、衣類の繕いなどは普段から気にとめておくことで直前に気づくのは怠けている証拠だとする説です。また、出かける際の支度は前日までに済ませ、余裕を持って出発したほうが安全といった心構えからいわれるようになったという説も。

 針を使う縫い物は、お盆やお正月の時期は「やってはいけない」との言い伝えもあります。お盆は、もし針仕事でけがをして血を流してしまうことがあれば先祖に失礼になる、お正月は、福を与えてくれる年神様に、針でけがをさせないようにとの思いもあったようです。

 出かける直前、または出先で着ている服のほころびの繕いやボタンつけなどを着衣のまま行わなくてはならない際は、言い伝えを思い出し、針の扱いに注意したいですね。

(鶴丸 和子)

鶴丸 和子(つるまる・かずこ)

和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
インスタグラム:tsurumarukazu