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「いっぱい失敗したんです」 編集長が語る「地球の歩き方」マイナス95%から復活までの道のり
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老舗旅行ガイドブック「地球の歩き方」が、ここ数年大きな変化を遂げています。きっかけは、旅行業界が大打撃を受けたコロナ禍。出版業界全体の売り上げ低迷が続くなか、原点回帰ともいえる打開策から業績をV字回復させました。そして1月には、筋書きのない旅行ガイドとしては異例の原案である、ドラマ「地球の歩き方」が誕生します。「Hint-Pot」編集部では、全3回のインタビューを実施。ドラマ化の背景などを聞いた前回に続き、「地球の歩き方」が空前の苦境に陥ったコロナ禍をどうやって乗り越えたのか、編集長の宮田崇さんにお話を伺いしました。
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「井の中の蛙 大海に出てみよう」 レッドオーシャンで溺れることに
日常生活に多くの変化をもたらしたコロナ禍による行動制限は、飲食店をはじめ、さまざまな業界に影響を与えました。そのなかで大打撃を受けたひとつが旅行業界であり、その旅をサポートする旅行ガイドもまた、手に取ってもらう機会を失いました。
「地球の歩き方」の売り上げはマイナス95%という、不況といわれる出版業界でも、例を見ない状況が1年以上も続いたといいます。
創刊以来、最大のピンチだったという局面をどうやって切り抜けたのでしょうか。宮田さんは「いっぱい失敗したんです」と神妙に言ってから笑い、しみじみと失敗談を語りました。
「欲をかいて『井の中の蛙 大海に出てみよう』と。我々が作っているのは書籍で、カテゴリーは実用書。その中の趣味実用で、さらに細分化された旅行ガイドという、階層としては4つくらい下で戦っているわけです。そこで『ひとつ上の階層、趣味実用に行こうぜ!』って、たとえばレシピサービスの大手さんと組んで料理本を作ったのですがコケました。
料理本では書店さんに相手にされず、良くても背表紙しか見えない棚差し、下手すると荷ほどきすらされないまま、返本の集積所に置かれる始末。レッドオーシャンに漕ぎ出し、一寸法師の刀ほどの針で空母を落とそうとした……そんな大敗をしたこともあります」
「恥ずかしげもなく散らかしてた」からできた“選択と集中”
さまざまな方向性を模索し、失敗を重ねたことを「恥ずかしげもなく全方向に散らかしてた」と表現した宮田さん。ただ、出版不況の中でチャレンジしてきた、ネクストブランドを模索する試みは無駄ではなかったと話します。
新型コロナウイルスによって、世界各国がロックダウンや渡航制限をし、2020年4月日本で初めての緊急事態宣言が発出された頃、決断のときが訪れました。
「それまで脱『地球の歩き方』のために分散していた力を集約して、ひとつの方向に絞るとしたら、今一番、勝てる武器は何か? と考えたとき、やっぱり王道の『地球の歩き方』だよね、と腹をくくったんです。違う階層で勝負するのではなく、書店の旅行ガイドの棚の中で戦う。たくさんの失敗があったから、みんなが納得できる“選択と集中”ができました」
そうして2020年9月「地球の歩き方」初めての国内版、「地球の歩き方 東京」を出版。大ヒットとなったことで、国内版シリーズの展開が広がります。さらに企画ものの「旅の図鑑」や「御朱印」シリーズなどのほか、「ムー」「ジョジョの奇妙な冒険」「宇宙兄弟」といったコラボ書籍が大きな話題になりました。