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ひな人形を「早く片づけないと婚期が遅れる」 言い伝えの理由とは いつ片づけるのが正解?
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子どもの頃、飾ったひな人形を前に「早く片づけないと婚期が遅れる」などと言われたことがある人もいるでしょう。実際にそのようなことに科学的な根拠はありませんが、なぜそう言われるようになったのでしょうか。日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。今回は、ひな人形の片づけにまつわる言い伝えについてです。
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ひな人形のルーツとは 穢れを移す人形だった?
ひな祭りは「桃の節句」や「上巳(じょうし)の節句」とも言われ、女の子の健やかな成長と幸福を願う行事です。上巳とは本来、旧暦3月の最初の巳の日に無病息災を祈る風習で、日常生活で生じた穢れを人形(ひとがた)に移して禊(みそぎ)を行う日でした。この人形が、やがて子どもの人形(にんぎょう)遊びと結びつき、室内に飾るひな人形に発展したと考えられています。
江戸時代になると、上巳の節句は「五節句」のひとつに定められ、5月5日の「端午の節句」が男の子の節句であるのに対し、3月3日の上巳の節句が女の子の節句となって定着。女の子の成長を願うために、きらびやかな衣装をまとった内裏びなをひな檀に飾る、ひな人形が流行しました。
早く片づける理由に「けじめ説、しつけ説、役目説」
ひな人形は、ひな祭りが終わったら「早く片づけたほうが良い」といわれています。年代によっては、すぐに片づけないと「お嫁に行き遅れる」や「婚期を逃す」などと、子どもの頃に大人から言われた思い出がある人もいるでしょう。
しかし、実際にそのような説に根拠はありません。ライフスタイルが多様化している現代にはそぐわない表現にもなっていますが、そもそもなぜそのような言い伝えが生まれたのでしょうか。理由には諸説ありますが、主なものを紹介しましょう。
ひとつは「けじめ説」です。「季節の行事はけじめを持って行う」との教えから転じたという見方があります。ひな祭りが済んだのに、ひな人形を飾りっぱなしにしていることは「けじめのないこと」だとされました。「子どもの教育上、良くない」といった考えから、親への戒めとして「子どもがお嫁に行き遅れる」などといわれるようになったとされています。
また、子どもへの「しつけ説」もあります。季節行事の片づけも満足にできないようでは「けじめのある、きちんとした大人にはなれない」と、行儀作法や生活習慣を身につけさせる意味から言い伝えられるようになったという説です。
このほか、ひな人形の「役目」が由来している説もあります。穢れを移す人形(ひとがた)にルーツがあるひな人形は、子どもの厄や災いを代わりに引き受けてくれるのが役目。節句が過ぎたのにいつまでも身近に飾っておくことは、良くないと考えられました。そのため、災いを遠ざけるための戒めとして広まったといわれています。
ひな人形は、いつ片づけるべき?
ひな人形をいつ片づけるかについて、とくに決まったルールはありません。ただし、季節の行事という意味では、遅くとも春分(3月21日頃)までを目安に片づけておくと良いでしょう。また、地域によってはひな祭りを旧暦で祝ったり、旧暦の3月3日まで飾ったりすることもあります。
「当日中に片づけなければならない」といった言い伝えもありますが、慌ただしくて風情がないと感じる人が多いかもしれません。また、片づけの際には、ひな人形を一度外気に当てて湿気を飛ばし、やわらかい筆などでホコリを払います。日付にとらわれず、なるべく早めのタイミングで、天気の良い日に行いましょう。
(鶴丸 和子)
鶴丸 和子(つるまる・かずこ)
和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
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