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「40歳半ばを過ぎてとうとう無職…」 妻の海外赴任で駐在夫に 悩みを払しょくしたメキシコ人の言葉とは

公開日:  /  更新日:

著者:ユキ

真冬のセントラルパークを走るジョガー。移住当初はその姿を見ながら、「何をやっているのかね。自分は」とつぶやいたことも…【写真:ユキ】
真冬のセントラルパークを走るジョガー。移住当初はその姿を見ながら、「何をやっているのかね。自分は」とつぶやいたことも…【写真:ユキ】

 妻の海外赴任に伴って、ニューヨークで駐在夫、いわゆる「駐夫」(ちゅうおっと)になった編集者のユキさん。配偶者に帯同する場合、ビザなどの問題で仕事を辞めたり、休職したりすることがほとんどです。ユキさんも例外ではなく、身ひとつで渡米することになりました。この連載では、「駐夫」としての現地での生活や、海外から見た日本の姿を紹介します。

 ◇ ◇ ◇

40代にして無職!? 「駐夫」として妻に同行

 日本を脱出して海外移住などといった記事を、以前よりよく見かけるようになりました。私自身も2022年から、妻の海外赴任に帯同し、現在は編集者、学生、主夫と三足のわらじを履いた生活を送っています。

 日本にいたときは出版社に勤めており、こちらに来るきっかけとなった妻とは、お互い40半ば過ぎに知り合いました。それが彼女の海外赴任が決まったこともあり、入籍することに。コロナ渦で、先方のご両親とは直接お会いすることもできず、オンラインで面会をして、慌てて結婚式を挙げました。その2週間後に、彼女はニューヨークへ。

 当初は、東京とニューヨークでの別居婚という形で結婚生活を送っていたのですが、1年半後に妻が現地で手術を受けることになり、いろいろと考えた末に渡米。駐在員の夫、「駐夫」になることを決めたわけです。

 駐在員の妻、「駐妻」(ちゅうづま)というのは聞いたことがある人は多いでしょう。夫の赴任で海外に帯同し、潤沢な手当てをもらって優雅な生活を送っている、そんなイメージもあるのではないかと思います(もちろん、現実には良いことばかりではなく、友人ができずに孤独、現地の言葉が話せない、海外生活になじめないなど、それぞれに悩みがあるのではないかと思いますが)。

 その一方で、「駐夫」というのは、あまり耳なじみがない言葉なのではないでしょうか。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」の代表を務めるジャーナリストの小西一禎(かずよし)さんによるもので、駐在員の妻に同行する夫のことを指し、駐在夫=「駐夫」となります。小西さんは大手メディアにて政治部記者として働いていましたが、パートナーのアメリカ赴任に伴い、会社の「配偶者海外赴任同行休職制度」を活用して渡米。同じ環境にある人が少ないなかで、お互いの悩みを共有できるようにと、この会を立ち上げたとのことです。

 女性の社会進出が進み、海外で働く女性も増え、女性活躍が声高に叫ばれる一方で、男女問題において往々にしてあるのですが、その対極にある男性の立場が置いていかれています。「男は稼いで、家族を養うべきだ」といった規範から、社会も、その本人たちもなかなか逃れることができないということもあるでしょう。

「人生を楽しめば良いんだ」 心に残ったメキシコ人の言葉

 私としては、40歳半ばを過ぎて、とうとう無職になったなというのが実感です。子どもがいないので育児をするわけでもありません。長年、気ままなひとり暮らしを続けてきたものの、外食ばかりで家事能力はほとんどなし。実家の両親に、アメリカに行って主夫になることを伝えたときは「あなた、家事なんてできないでしょ」と言われ、確かにそうだなと納得し、「ヒモみたいなものだよ」と言っていました。

 自分としては、男性だから、女性だからとあまり考えたことはなかったので、気になることはないかなと思っていました。とはいえ、大学を卒業して働き始めてからは、自分の判断で好きなように生きてきたわけです。

 それが、こういった立場になると、お金を使うにしても、これは使って良いものだろうかと気兼ねしてしまい、どうも居心地が悪く感じました。自分は働かずに家にいて、一方で妻は毎日出勤していきます。

 なので、今のように仕事を始める前は、なかなか惨めな気持ちになっていました。たいしたキャリアがあったわけでもないのですが、ふと我に返って「何をやっているのかね。自分は」と、セントラルパークのベンチに座って、目の前を颯爽と駆け抜けていくジョガーを眺めながら、ひとりつぶやいていたものです。

 そんななか、同じような境遇の人には、やはり励まされることがあります。こちらに来てから日本人に限らず、スペイン人やイタリア人、韓国人など、妻の帯同でニューヨークに来ている「駐夫」たちに会いました。一般的に日本人は性別役割意識が強いといわれていますが、ほかの国から来たみなさんも、それなりに葛藤を抱えているようではあります。

 そのなかのひとりであるメキシコ人の友人が、肩を叩き、こう言ってくれました。

「いいか、俺たちはラッキーなんだ。お前は学校を卒業してからどれくらい経つ? 20年以上か。これまで散々働いてきただろう。これはそのご褒美だ。神から与えられたギフトなんだよ。だからうだうだ言ってないで人生を楽しめば良いんだ」

「MBAコンサルタントとメキシコ人漁師」という有名な話がありますが、今を楽しむ姿勢を持つのは、大事なのではないかと。男性、女性ということではなく、これまでのキャリアについてあまり深く考えずに、今できることに意識を集中するのが精神衛生上、良いような気がしました。

(ユキ)

ユキ(ゆき)

都内の出版社で編集者として働いていたが、2022年に妻の海外赴任に帯同し、渡米。駐在員の夫、「駐夫」となる。現在はニューヨークに在住し、編集者、学生、主夫と三足のわらじを履いた生活を送っている。お酒をこよなく愛しており、バーめぐりが趣味。目下の悩みは、良いサウナが見つからないこと。マンハッタン中を探してみたものの、日本の水準を満たすところがなく、一時帰国の際にサウナへ行くのを楽しみにしている。