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卒業演奏会の写真に1人だけTシャツ姿 実は「首席」「卒業式で表彰」、話題の学生に聞く真相

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム

サクソフォンを演奏する石脇陽太さん【写真提供:石脇陽太(@T_saxatilis)さん】
サクソフォンを演奏する石脇陽太さん【写真提供:石脇陽太(@T_saxatilis)さん】

 それぞれの学科のトップから一定の基準を満たした学生のみが選ばれる、音楽大学(音大)の卒業演奏会。4年間の大学生活の集大成、宣伝用の写真にはおのおのドレスやタキシードなど記念に残る服装をして出席者が並んでいますが……。その中で1人、Tシャツ姿で写った“猛者”が話題になっています。投稿の直前には恩師との予期せぬ別れが。一連の背景を本人に話を聞きました。

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学生生活は現状への苦悩ともどかしさに葛藤

「普段の格好で写真を撮ろうと自分から提出したものです。周りの様相も確認した上で、(学校側には)自信満々でこのままで良いと答えております」と話すのは投稿者の石脇陽太(@T_saxatilis)さん。シュールな状況と他の参加者とのミスマッチさが大反響を呼んだポストですが、「仲間のあきれ顔を見るために何気なく投稿したものが今やこの通り。他のポストを見て笑っていた人間が人を笑わせることになり、しかもその中身が表現者のタマゴであることは大変な皮肉であります」とユニークな表現で今回の反響を振り返ります。

 石脇さんは現在、大阪音楽大学の4年生。先日は卒業演奏会とは違うイベントの卒業公演が行われたそう。ジャズの演奏をテーマに据え、これまでの例にないものだったと言います。「ジャズライブの曲選びはテンポやキー、拍子やビートをバランスよく配置することが多かったり、大編成の『ビッグバンド』であればそれに加え作曲家で縛ったりします。私はそこに加えて音大の先生を含むプロをお呼びし、全曲自作編曲、幕間映像音楽制作、演出を総監修したんです」。

 全力を注ぎ、ひとつの舞台として作り上げることに成功。観客をも引き込んで完成した一夜は「ジャズのライブとしてはなかなかない側面からアプローチをした演奏会として、多くの人にお褒めの言葉をいただきました」。今回のポストも石脇さんならでは新視点から生まれたものだと言えそうです。

 充実した時間を送るため、学生生活では「何かやってみる」ことを大事にしてきたといいます。宣伝映像やチラシのデザインなどでは工夫を重ね、表現を追求。「後悔しないよう、思いついたことはとりあえず自分なりに実現する努力はしてきました」。

 その積み重ねで手にした「首席」「卒業式で表彰」の称号。現在の姿は入学時から見て、どのように映っているのか尋ねてみると、「おそらく結果論だけを見て喜ぶと思います。そこに至るための苦節をまだ知らない訳ですから」と吐露。聞くとこの4年間は、現状への苦悩と、無気力で何もできないことに対するもどかしさの矛盾に苦しんだそうです。

 しかし、自身が持つ音楽の技能からだんだんと仲間や先生に人間性を知ってもらい、「自尊心」が生まれたそうです。

師匠との思い出も述懐「寂しくてたまりません」

石井さんの宣伝用写真※画像は一部加工【写真:石脇陽太(@T_saxatilis)さん】
石井さんの宣伝用写真※画像は一部加工【写真:石脇陽太(@T_saxatilis)さん】

 該当のポストの前日には、師として薫陶を受けてきたサクソフォン奏者の古谷光広さんが亡くなる悲劇が起きてしまいました。「かなわないけど越えなくてはいけない壁」と恩師を表現した石脇さんは、「常日頃から『やれる事は手を抜くな。そのやれる事を増やすために新しいことを学べ。それがお前の世界になる』と教えられてきました」と大事にしている教訓を教えてくれました。

 古谷さんとの最終レッスンは試験曲の即興演奏だったそうです。20分間、休みは一切なし。伴奏をかけ、互いの本気をぶつけあいました。「最後まで演奏者、表現者として逝きたいと言っていたことを実現させたとはいえ、寂しくてたまりません」。ご遺体とも対面し、思いを率直に打ち明けました。

 入学時の自分には「師匠は卒業演奏と私と一緒にやるライブ前に急に亡くなり、その翌日20万に顔を晒している。回り回って全力で生きてきた過程をまとめることになる。覚悟しておくことをオススメする、でしょうか」とアドバイスしました。

 誰もが認める実力の持ち主。石脇さんの今後の活動にも期待が高まります。「まだ学生のため、覚悟は足りないかもしれませんが、演奏作編曲はプロとして続けていきたいと思っています」と今後について考えを明かすと、「何より、正論を言うだけ言って努力を笑うような、違うことをする勇気や可能性を潰すことだけはしたくありません。誰かに教えるということは回り回って自身の技術を見つめ直すことにつながる、そう考えているため楽器を教えることにも興味があります」と自身のモットーを話した上で、別の道に可能性があることを示唆しました。

 音大生やクラシック、ジャズに対する偏見がなくなってほしい、そう願っている石脇さんは14日に卒業演奏会の本番を控えます。「今後の音楽生活の覚悟、そして図らずも故人を偲んでの思い出の曲を演奏します。1人でも多くのお客様にお越しいただきたく思います」とメッセージを送りました。

○石脇さんの曲も入ったApple Musicの「ジャズ」シーン
https://music.apple.com/jp/album/atacama-for-big-band/1726988816?i=1726988817

○大阪音楽大学の卒業演奏会詳細
https://www.daion.ac.jp/concert-news/180323/

(Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム)