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自宅の1階がまるで図書館 「漫画好きには夢のお城」とネット騒然 話題の明大教授に聞く経緯

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム

話題になった江下雅之さんの自宅書庫【写真提供:江下雅之さん】
話題になった江下雅之さんの自宅書庫【写真提供:江下雅之さん】

 自宅の本棚がまるで図書館のような規模と話題になったのが、明治大学情報コミュニケーション学部教授・江下雅之(@massa27)さんです。「#少しだけ本棚を見せる」のハッシュタグで書庫の一部を公開したところ、2万件の“いいね”が集まる反響に。蔵書はなんと1万4000冊と言います。詳しい経緯を聞きました。

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ネット注目 「凄い!遠い昔のブックオフを思い出す」

 江下さんがXに自宅書庫の画像を公開したのは2月27日のことでした。

「うちの書庫はジャングルジム構造なので地震に強い。東日本大震災のとき震度5強だったが、最上段の本が1cmほどせり出しただけだった。7.6畳のスペースにマンガ1.2万冊と雑誌2k冊ほど収納してある」

 自宅とは思えない書庫に、ずらりと並んだ漫画。さらに、揺れにも強いとあって、ネット上では瞬く間に話題になり、「凄い!遠い昔のブックオフを思い出す」「図書館かと」「漫画好きには夢のお城」「これは本棚のイノベーションです」「レンタルショップできるレベル」「敵が攻めてきた時に切って落として通路を塞ぐ障壁みたい」など多くの声が寄せられました。

 江下さんは、「書庫は自宅の1階に設けてあります。制作したのは2004年8月で、新築の家を購入したタイミングにあわせて2週間ほどかけて作りました」と語ります。

 漫画1万2000冊、雑誌2000冊を収納。この経緯は?

「マンガの数が増えたのは、もともとはマンガが好きだったからで、気がついたら5000冊ぐらいになっていました。増えるペースが速かったのは、ひとつには少年マンガ・少女マンガ・青年マンガが満遍なく好きだったことと、古書マニアでもあったので、古書店で全巻セットをまとめ買いすることが多かったからだと思います。経験的には、『読みたい』という動機だけだと5000冊もあれば満たされてしまうのですが、このあたりから『集めたい』という欲求が湧いてきました。つまり、マンガ好きからマンガコレクターに嗜好(しこう)が変わってきた、ということですね。さらにそのタイミングでマンガ古書に関する本やムックを書くようになったことから収集ペースがアップしたと思われます」

 趣味が高じて途中からは職業の一部に。ダイヤモンド社「マンガ古本雑学ノート」を始め、複数の本を執筆、企画・監修してきました。

 仕事として漫画に向き合うようになると、収集力はさらに向上。資料として大量に購入することも。その買い方は、すさまじいのひと言です。

「たとえばダイヤモンド社の本を執筆していたときに、古い新書判コミックスの書誌情報を調べるために、京都の古書店で一度に300冊まとめ買いしたとか、三重県の国道23号線沿いの古書店チェーンを朝から夜までハシゴして1日で700冊買い集めたとか。地元は横浜ですが、この時期は月に1回、八王子の大型古書店を中心に車で『買い出し』に出かけたりもしていました」

 大人買いをはるかに超えるスケールですね。

「このころは新書判コミックスのリストづくりに力を注ぎました。当時は同じことをしているマニアがけっこう多く(「なつ漫太郎」さんがかなり有名でした)、みなさんいろいろと特色を競っていたものですが、私の場合、KCフレンド、KCなかよし、KC別フレ、KC mimi、ダイヤモンドコミックスなどがオリジナルであり、書影まで付けたのも当時他には誰もやっていなかったと思います。こうしたリストと書影はいまでもサイトで公開してあります」

研究室に別途7000冊! 「完全に古書店のバックヤード状態」

 江下さんは、1960年代・70年代に刊行された新書判コミックスおよびB6判コミックスのデータを整備し、ネット上で公開。ばく大な書影のアーカイブを書店別に検索できるなど、漫画好きにはたまらないサービスを無料で提供しています。

「そんなわけで、1万冊を超えるようになったのは『読む』だけでなく、仕事の都合もあったからでもあります。日本マンガ学会が設立されたときも会員として加わり、マンガ関係のデータベース化に取り組んでいた清水勲(故人)さんの知遇を得ました。じつはマンガを集めようと思うに至ったきっかけの一つが、清水さんが昔、日経産業新聞に寄稿していた記事でした。本格的にマンガを研究するには、少なくともマンガ本を2万冊、雑誌を5000冊蔵書する必要があると書かれていたのです。本格的にマンガを研究しようという気持ちはありませんでしたが、ある程度の流れを把握するためには、やはり身近なところで量に接する必要があります。なので、1.2万冊というと一般的には『多い』と思われる数字だと思いますが、多少なりとも仕事として関わっていた立場からすると、『これでもごく一部あるだけ』という認識です」

 その博識ぶりと専門性から、週刊文春からも漫画収集に関する取材を受けたほど。なお、雑誌2000冊も「マンガとSFに関するもの」だと言います。

 また、気になる耐震性については、当初から蔵書2万冊=総重量3~4トンと想定し、家そのものの建築計画を進めたそうです。「家を建てるとき、業者に『グランドピアノを置いて、その周りで小錦と曙が激しく踊りまくっても耐えられる床の強度が必要』と言ったところ、コンクリの土台の上に直接床板を敷くことになったため、床が抜けること自体がありえなくなったのです」と説明しました。

 ただ、これだけの大きなの書庫もすでにパンパンです。

「じつはここ十数年、日仏のファッション誌の研究をおこなっていて、こちらは別途7000冊ほどあります。ただし、さすがにこれだけの大判雑誌を自宅に置くのは不可能なので、ファッション誌関係はほぼすべて研究室に置いています。そのせいで研究室の方こそ完全に古書店のバックヤード状態になってしまっています」とのこと。

 これまでに本棚を何十個と自作してきたという江下さんですが、さすがに自宅書庫の増築は不可能でした。

「蔵書の増加にともなう増改築はおこなっていませんし、おこなう予定もありません。処分に困るのは研究室に置いてあるファッション誌ですが、こちらは教え子に少しずつ譲っています」と続けました。

 投稿が話題になったことには、「書庫のニーズがこれほどあるのかということに少々驚きました。これまでの仕事の関係でマンガ家・小説家の友人・知人が多く、そういう人たちに書庫のニーズがあることは十分に承知していましたが、いわゆるマニアやオタクの人たちも同様なのだと思いました」と、受け止めました。

(Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム)