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「マルハラ」は言い過ぎ 若者は区別しているだけ 大学講師「メディア発のステレオタイプ」

公開日:  /  更新日:

著者:Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム

文章にほとんど句読点を付けない現代の若者たち(写真はイメージ)【写真:写真AC】
文章にほとんど句読点を付けない現代の若者たち(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 最近の若者は年上世代からのメールやLINEのメッセージの最後に句点の「。」が付いていると威圧感を覚えるとする、いわゆるマルハラスメント(マルハラ)が話題となっています。SNSの文章で句読点を省略してしまう若者の日本語スタイルに対抗するためか、大人世代が故意に「。」を付けて若者にメッセージを送る行為がハラスメントにあたる、というわけですが、実際のところはどうなのでしょうか。「若者言葉の研究 SNS時代の言語変化」(九州大学出版会刊)などの著書がある宇都宮大学の堀尾佳以講師(現代日本語学)に聞きました。

 ◇ ◇ ◇

若者言葉への対応に苦慮する大人たち

 大人世代にとって若者言葉はなかなか分かりにくい領域です。「了解」が「りょ」になり、さらに「り」の1文字で意思を伝達してしまう離れ技まで“発明”してしまう若者たち。今話題になっている「マルハラ」も不可思議な若者言葉への対応に苦慮する大人たちからの発信でした。歌人の俵万智さんが自身のX(旧ツイッター)に「句点を打つのも、おばさん構文と聞いて…この一首をそっと置いておきますね~」と前置きしたうえでこんな短歌を投稿しました。

〈優しさにひとつ気がつく ×でなく○で必ず終わる日本語〉

 堀尾さんは「若者たちが句読点を省略する事例は頻繁に目にしますし、実際に学生から私あてに送られてくるメールやLINEのメッセージにも『。』や『、』が付いていないことも多いです。ただ、若者が『。』や『、』に圧力を感じるというのはやや言い過ぎといいますか、メディア発のステレオタイプのような気もします」と指摘しました。

 就職活動の際、先方の企業窓口に送るメッセージの文体や体裁などについて日頃から学部生らに指導しているため、若者は「。」や「、」の用法をしっかりと理解しており、同世代の友人同士で交わすメッセージと使い分けている、といいます。

「大人から発せられる『。』や『、』に圧力や恐怖を感じるほど若者は虚弱ではありません」と若者たちの自由な日本語使いに理解を示す堀尾さん。句読点に対する若者たちの独特のスタンスを次のように認識しています。

「現代の若者たちは少しでも早く相手とつながりたい、という気持ちがあるせいか句読点を省いてメッセージを送るスタイルがほぼ定着していますね。メッセージの全文を書いた後にゆっくり見返し気になる文体を整えてから送信する、という大人たちの習慣では遅すぎるようです。短文メッセージを何回も敏速にやりとりする、ということの方を重視しているので“行間”を作ることもしません。例えるなら、“以心伝心の仲”になることを優先するのです」

 大人たちは「どういうこと?」と奇妙な感覚になってしまいますが、堀尾さんはこう具体例を挙げます。

「皆さんは親やきょうだいにLINEのメッセージを送る際、句読点を付けますか? ほとんどの場合は友達感覚なので敬語はもちろん『。』や『、』もあまり付けないで送っているのではないでしょうか。つまり句読点を省略する若者言葉とは実際にはそういう感覚なのです。『句読点を付けない=失礼』なのではなく、より親しい関係性に近づきたい、という気持ちが若者言葉に現れているような気がします。また、『経済化』と言って文章をできる限りスリムにさせるスタイルも顕著で、おじさん構文やおばさん構文によく出現する『!』を省くことも多く見かけますね」

 一方、この「経済化」によっては若者の意図がよく分からない、といった大人の戸惑いも多く報告されています。例えば、「最近のファッションについてよく参照するXがあれば教えてください」と若者にLINEで依頼したところ、なんの前触れも補足もなくURLだけ送られてくる、といった事例です。さすがにこれは唐突な気がしますが、堀尾さんは「これもお互いの人間関係が近い、と若者たちが思っているからです。形式だけの面倒な言葉のやりとりは省略して“肝”の部分だけ送ってくるのはそのためです。ただ、自身の成績評価や進学、就職にかかわる大学教員や重鎮の先生に連絡する際は、『きちんと文面を整え、くれぐれも句読点を省略しないように』と指導しています。さすがに失礼になりますから(笑)」

 若者たちの日本語世界は、大人たちには想像できない独自の領域に進化しているようです。

(Hint-Pot編集部/クロスメディアチーム)