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マダイを「桜鯛」というのはなぜ? 季節によって変わる呼び名 栄養士が解説
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教えてくれた人:和漢 歩実
おめでたい席に欠かせない魚といえば、タイです。日本近海では、マダイ、クロダイ、チダイ、キダイなど十数種類のタイ類が生息しており、一般的に「タイ」といえば赤色の魚体が美しい「マダイ」のことをいいます。春になると「桜鯛」と呼ばれる魚が出回りますが、タイ類ではないのでしょうか? タイとの違いなどについて、栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに伺いました。
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桜鯛は春に釣れるタイ 別に「サクラダイ」もいる
結論からいうと、春に出回る「桜鯛」はマダイのことで、魚の種類ではなく、春先に水揚げされるタイの呼び名です。タイは5月頃に産卵するので、春先はちょうど産卵前の時期。栄養や脂の乗りが良く、おいしくなります。魚体も鮮やかなピンク色になり美しく、桜が咲く季節でもあることから、春に釣れるタイを「桜鯛」と呼び、旬のおいしい魚として珍重されます。
タイは通年出回りますが、旬は年に2回あります。産卵前の春先と、産卵期から回復して脂が乗った晩秋です。晩秋のタイはウロコの赤みが強くなり、春の「桜鯛」に対して「紅葉鯛」と呼びます。おいしくなる季節にちょうど見頃を迎える植物にたとえた、風情ある呼び名です。
一方で産卵後の夏のタイは、麦類の収穫期に重なることから「麦わら鯛」と呼ばれます。産卵を終え、痩せて風味が落ちる時期とされています。
ちなみに「サクラダイ」という魚も存在します。タイと名はつきますが、ハタ科の魚です。食用としてはほとんど流通しませんが、全長は15センチほどで、英名は「チェリーバス」です。
タイの栄養とは 体の赤色にもうれしい成分が
タイは、低脂肪でたんぱく質が豊富な白身魚の代表。青魚には劣りますが、脳の活性化に良いといわれるDHAや、血液をサラサラにして血栓防止に期待できるEPAのオメガ3脂肪酸、疲労回復のアスパラギン酸が多く含まれます。
体表の赤色は、アスタキサンチンによるものです。タイはエビやカニをエサとするため、赤色になるといわれています。アスタキサンチンには強い抗酸化作用があり、老化防止や生活習慣病予防にも期待。化粧品にも使われている成分です。
タイは淡泊な味わいながら、旨味の成分となるイノシン酸をはじめグルタミン酸が豊富。刺身や焼き魚、煮付け、酒蒸し、タイめしなど、さまざまな料理が楽しめます。オメガ3脂肪酸は頭の骨の部分に豊富に含まれているため、積極的にとりたい場合はかぶと煮もおすすめです。
また、身を切り出したあとに残る「アラ」は、比較的手頃な価格で購入できます。アラとは、頭、カマ(エラからヒレにかけた部位)、中骨、尾などです。タイのアラには、肌や髪、爪などの健康に欠かせないコラーゲン、骨の形成に必要なカルシウムをはじめ、貧血予防の鉄、筋肉や神経の働きをサポートするマグネシウムなどの栄養が含まれています。甘辛く味つけした「あら炊き」にすると、栄養豊富な皮ごと食べやすく、おいしいです。
春のお祝いの席で、栄養豊富で脂が乗った桜鯛を堪能したいですね。
(Hint-Pot編集部)
和漢 歩実(わかん・ゆみ)
栄養士、家庭科教諭、栄養薬膳士。公立高校の教諭として27年間、教壇に立つ。現在はフリーの立場で講師として食品学などを教える。現代栄養と古来の薬膳の知恵を取り入れた健やかな食生活を提唱。食を通して笑顔になる人を増やす活動に力を注いでいる。
ブログ:和漢歩実のおいしい栄養塾