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「寝言に返事をしてはいけない」「靴下をはいて眠ってはいけない」 眠りにまつわるタブー 科学的根拠は?

公開日:  /  更新日:

著者:鶴丸 和子

寝言に返事をしてはいけない?(写真はイメージ)【写真:写真AC】
寝言に返事をしてはいけない?(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「春眠暁を覚えず」との言葉があるように、春の眠りは心地良いものです。睡眠については、現代でもまだ解明されていないことが多いようですが、昔から「寝言に返事をする」や「靴下(足袋)をはいたまま寝る」のは、縁起が悪いとされてきました。なぜなのでしょうか? 日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。今回は、眠りにまつわる言い伝えを紹介しましょう。

 ◇ ◇ ◇

眠りを邪魔しないためには寝言に言葉を返さないほうが良い

「寝言に返事をしてはいけない」という言い伝えを聞いたことがある人も多いでしょう。眠っている人が発した寝言に話しかけると、その眠っている人が「眠りから覚めなくなる」とか「早死にしてしまう」などといった、不吉なことが起こるからだと信じられてきました。

 言い伝えの由来には諸説ありますが、昔は眠っている間は「魂が肉体から抜け出ている」と考えられていたことが背景にあるようです。そのことから、寝言に言葉を返すと「魂が肉体に戻れなくなる」や「魂があの世にいってしまう」などといわれるようになり、「寝言に返事をする」のがタブーとされてきました。

 実際には、寝言に返事をしたことが原因で、眠っている人が目覚めなくなるといった科学的な根拠はありません。睡眠については現代でも解明されていない部分が多いようですが、一般的な寝言の原因は、見ている夢への反応、日中の強いストレスや不安の表出で、脳が活動している浅い眠りのときに多いと考えられています。

 したがって、寝言に話しかけた場合、眠っている人にとっては脳が反応するので負担があったり、途中で眠りから覚めてしまったりして、睡眠の質が低下する原因になることもあります。睡眠の邪魔をしないためには、よほどのことがない限り「寝言には返事をしてはいけない」ほうが良いのかもしれません。

靴下をはいたまま眠ると、熱がこもり睡眠の質の低下も

 春とはいえ、足の冷えが気になり、靴下をはいたまま就寝する人もいるかもしれません。一方で「靴下をはいて眠るのは縁起が悪い」とか「親の死に目に会えない」などの言い伝えを聞いたことがあり、寝るときは靴下を脱ぐよう、子どもの頃に言われた経験がある人もいるでしょう。

 昔は「足袋をはいて眠ってはいけない」といわれていました。これは、足袋をはいて眠るのが亡くなった人を連想させることに理由があったようです。葬儀では、あの世に旅立つ準備として足袋と草履をはかせる風習があり、「足袋をはいて眠ること」は永遠の眠りに通じ、忌むべきものと考えられました。そのため「親の死に目に会えない」など、不吉なことが起こるような強い表現で戒めたといわれています。

 このように迷信的な側面があった「足袋をはいて眠ってはいけない」との言い伝えですが、近年の睡眠に関する研究では、睡眠の質に関係するといった報告もあります。靴下をはいたまま布団に入って眠ると、足先から熱を放出することが妨げられてしまうので、睡眠の質が低下するといった見解です。良い睡眠を得るためには、足を温めておくために直前までは靴下をはいていても、布団に入ったら「靴下をはいたまま眠ってはいけない」ことを実践するほうが良いのかもしれません。

「寝言に返事をする」ことや「靴下をはいたまま眠る」ことで、不吉なことが起こるといった科学的な根拠はありませんが、先人から語り継がれてきた言い伝えの由来を知ることで、また違った発見が。心地よい春に、質の良い睡眠を得たいですね。

【参考】
「知れば恐ろしい 日本人の風習」千葉公慈著(河出書房新社刊)
「本当は怖い! 日本のしきたり 秘められた深い意味99」平川陽一著(PHP研究所)

(鶴丸 和子)

鶴丸 和子(つるまる・かずこ)

和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
インスタグラム:tsurumarukazu