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前妻の子に遺産を渡したくない 今の家族にすべて相続させる方法はある? 税理士が解説
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3組に1組が離婚しているといわれています。再婚し、新たに家族を築いた場合、問題になることもあるのが遺産相続。もしも、すべての遺産を現在の家族に相続させたいと思ったとき、対処法はあるのでしょうか。豊富な実務経験がある税理士でマネージャーナリストの板倉京さんが、お悩みを基に解説します。
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2人目の妻と築き上げた財産だから、すべて今の家族に残したい
「前妻との間に35歳になる子どもがいるのですが、私の財産は今の妻(50歳)と子ども(18歳)にすべて残したいと思っているんです」
そう話すのは、山田剛さん(60歳・仮名)。前妻との子どもとは、もう何十年も会っていないといいます。
「私は会社を経営しているのですが、前妻との結婚当時は事業がうまくいかず、それが原因で別れてしまったんです。前妻の実家は裕福で、子どももそこで不自由なく暮らしていたようですし、養育費もずっと払い続けてきました。今は立派な大人ですから、もう私の遺産などなくても大丈夫だと思います」
また、山田さんが現在の妻と子にだけ遺産を相続させたい理由は、ほかにもあります。
「今の妻は商社で働いていたのですが、結婚後に退職して私の会社を手伝ってくれました。仕事ができる人で、彼女が手伝ってくれたおかげで経営がうまくいき始め、会社も大きくなりました。今の財産は、現在の妻と力を合わせて築き上げたものなんです」
遺言書があっても遺留分は発生する
山田さんの言い分もわからなくはありませんが、山田さんの希望を叶えるのは、法律的に難しいことです。結論から申し上げると、「前妻の子に財産をあげない」で済む、完全な方法はありません。妻とは離婚すれば赤の他人になりますが、子どもとの縁は切っても切れないのです。
「今の妻と子にすべて相続させる」という遺言書を残しても、子どもには遺留分(最低限相続できる権利)があります。子どもが遺留分を主張すれば、それに応じざるを得ません。遺留分が問題になるのは、山田さんが亡くなったあとです。自分の亡きあとに、大切な今の家族が前妻の子と財産をめぐって争うなんて、かわいそうではありませんか。
こうした争いを避けるためにも、遺留分相当を前妻のお子さんに相続させるという内容の遺言書を書いておくことをおすすめします。
争うことを覚悟で対処する方法も
「いや、多少争うことになっても、全部今の家族に相続させるんだ!」ということであれば、遺留分を主張されることを覚悟して、「すべてを今の家族に」という内容の遺言書を残してください。
そのうえで、念のため遺留分相当額を生命保険などで用意しておいていただくことなどをアドバイスしています。生命保険は遺産分割の対象外なので、預金の一部を生命保険にして、受取人を今の妻や子にしておけば、遺留分の対象となる財産を減らすことができます。
似たようなケースで、「妻が離婚に応じてくれないので、今のパートナーと法律上の婚姻ができない」というご相談を受けたこともあります。
法律では、どんなに愛し合っていても入籍していないパートナーに相続権はありません。一方、どんなにいがみ合っていても、入籍している配偶者には相続権が認められています。
弁護士の力を借りるなど、なんらかの法的手段をとれば今の妻と離婚できるかもしれませんが、それができないのであれば、遺言書や生命保険などで今のパートナーに少しでも多くの財産を残す対策をしておきましょう。
(板倉 京)
板倉 京(いたくら・みやこ)
1966年10月19日、東京都生まれ。神奈川県内で育ち、成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。保険会社勤務後に結婚。29歳で税理士資格試験の受験を決意し、32歳で合格する。36歳での長男出産を経て、38歳で独立。主な得意分野は、相続、税金、不動産、保険。テレビでは「あさイチ」「首都圏ネットワーク」(ともにNHK)、「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)、ラジオでは「生島ヒロシのおはよう一直線」(TBSラジオ)などに出演して解説。主な著書は「夫に読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「相続はつらいよ」(光文社知恵の森文庫)、「女性が税理士になって成功する法」(アニモ出版)、「知らないと大損する! 定年前後のお金の正解」(ダイヤモンド社)など多数。