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「掃除すると運気が上がる」や「丑三つ時に入ってはいけない」のはなぜ? トイレにまつわる言い伝えの背景とは

公開日:  /  更新日:

著者:鶴丸 和子

トイレ掃除(写真はイメージ)【写真:写真AC】
トイレ掃除(写真はイメージ)【写真:写真AC】

 日本のトイレは、先進的な機能はもちろん、清潔なところなど、訪日外国人から絶賛されることが多々あります。これほどまでに日本のトイレが整っているのは、単なる排泄の場ではなく、古くから「トイレには神様がいる」など特別な場としてとらえてきた日本特有の考え方にも関係があるといえるでしょう。日本古来の伝承や風習、先人の知恵など諸説に着目するこの連載。今回は、トイレにまつわる言い伝えに迫ります。

 ◇ ◇ ◇

トイレには神様がいる?

 古来、日本には「八百万(やおよろず)の神」といって、すべてのものには神様が宿ると考えられてきました。そのため「トイレにも神様がいる」と信じられ、特別な場所としてきた背景があります。

「トイレの神様」については、諸説あり、地域や信仰によってさまざまです。たとえば、烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)は、あらゆる日常のけがれを焼き払い清める力を持つことで知られ、トイレの神様として祀られています。また、美しい女神が宿っている説や、七福神である弁財天が守護神との説が伝わる地域、トイレの神様を厠(かわや)神や便所神と呼ぶところもあります。

 そのため日本では、トイレをきれいに掃除すると、こうしたトイレの神様が、家庭内のけがれを取り除き健康を守ってくれる、富や繁栄を授けてくれるなどと考えられるようになりました。トイレを清潔に保つきっかけのひとつとなり、衛生面においても大切な役割を果たしてきたといわれています。

「トイレを掃除すると運気が上がる」と現代でもいわれるのは、「トイレには神様がいる」といった昔からの信仰が背景にあるからといえるでしょう。

夜中のトイレが「怖い」とされた理由

 神様がいる一方で、昔からトイレは「怖い」場所でもありました。理由には、トイレが「あの世」との境目と考えられていたことが挙げられます。トイレは排泄の場であり、「体内」にあった不要なものを「体外」に出す場。つまり昔の人は「この世」から不浄なものを「あの世」に送り出す境界の場所としてとらえていたそうです。トイレにまつわる怪談が多いのも、この考えが関係しているといえます。

「丑三つ時にトイレに入ってはいけない」という言葉を、子どものころに聞いたことがある人もいるかもしれません。丑三つ時とは、深夜の午前2時から午前2時30分ごろを指す「草木も眠る」不吉な時間。この世とあの世の境界があいまいになる時間帯で、鬼や霊が現れやすいと信じられてきました。そこで夜も深まるこの時間に、あの世との境界であるトイレに入ることを恐れ、避けたとしています。

 ただし、夜間の危険から身を守るための注意の役目もあったとする説も。そもそも昔の日本のトイレは、家の外や屋敷の奥に設置されることが多く、薄暗い閉鎖的な空間でした。夜中になれば、現代のような照明設備が整っていないため、足元は見えにくく、子どもの転倒やケガのリスクが高かったといえます。そのため、夜中にトイレに行く際は、いつも以上に気をつけることを促す意味もあったようです。

トイレを意味する言葉はたくさん WCは何の略?

 日本には「トイレ」を意味する言葉がたくさんあります。今はお手洗いや化粧室と呼ぶのが一般的ですが、古くは厠、雪隠(せっちん)、東司(とうす)、ご不浄(ふじょう)、憚(はばかり)など。ダイレクトにいえば便所となりますが、このような間接的な呼び方に日本特有の奥ゆかしさが感じられます。

 ちなみにトイレの表示で「WC」のマークを見かけることがありますが、これは「Water Closet(ウォーター・クローゼット)」の略。「水洗式トイレ」を意味し、汲み取り式のいわゆる「ぼっとん便所」と区別するために「WC」と表示した経緯があるといわれています。

 トイレの様式は変わっても、今も昔も、日常生活と深い関わりがある場所。だからこそ多くの迷信や伝承が生まれ、現代にも受け継がれているのでしょう。

(鶴丸 和子)

鶴丸 和子(つるまる・かずこ)

和文化・暦研究家。留学先の英国で、社会言語・文化学を学んだのをきっかけに“逆輸入”で日本文化の豊かさを再認識。習わしや食事、季節に寄り添う心、言葉の奥ゆかしさなど和の文化に詰まった古の知恵を、今の暮らしに取り入れる秘訣を発信。
インスタグラム:tsurumarukazu